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異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
3-素晴らしき人間の栄華
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14

「おーい」

 ……突如、背後の牢から声が聞こえてきた。確実に、先ほどまでいたティオのことを呼んでいる。

 ちらりと振り返ると、そこには三毛猫柄の耳を持つ、猫人族の女性がいた。後ろには、灰色の鼠のような亜人の少年もいる。同じ種族ではないが、同じ牢に入っている二人。金髪と茶髪。大きな耳と、長い尻尾。何だがコンビのようだ。

「凄いねぇ、坊主。そんな魔法、アタシ初めて見たよ」

 翡翠色の瞳を光らせる彼女。ただ純粋に、ティオの魔法に興味を持ったらしい。「そうじゃないだろ、ショコラ! せっかくのチャンスなんだ、オレたちも便乗させてもらおうぜ!」

 呑気な相方に、鼠少年がツッコミを入れる。特有の尻尾を左右に振りながら、興奮した口調でまくし立てる。

「人間!! 頼むから、オレたちも助けてくれ!!」

「……コロネ、アンタ『プライド』ってものはないのかい? 何で人間のお世話になんなくちゃいけないのさ」

「バカ!! そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」

 あくびをしながら盛大に寝転ぶ三毛猫と、手をブンブン振りながら彼女をたしなめる鼠。全く息が揃っていない。

「悪いけど、僕はボランティアじゃないから。タダでは出してあげないよ?」

 ティオはあくまで冷淡に振る舞う。こんなところで時間を潰している場合ではないのだ。

「じゃ、じゃあ、タダじゃなければ出してくれるってことだな!?」

「まぁね。物によるけど」

 その言葉を聞いた途端、コロネと呼ばれた鼠は瞳を輝かせた。どうやら、とっておきがあるらしい。

「分かった!! 特別出血大サービス!! 『セイレーンの歌声』をやる!!」

 そう言うと、彼は懐から大事そうに小瓶を取り出した。それを見て、三毛猫のショコラががばっと起き上がる。

「アンタ、頭おかしくなったのかい!? あんなに苦労してセイレーンに近付いたのに、こんな人間にあげちまうなんて、正気の沙汰じゃない!!」

「そりゃそうだけどさぁ、緊急事態だろ!? こんな監獄、とっととおさらばしたいんだよ、オレは!!」

 彼らが揉めるのも、無理はない。個体数の非常に少ないセイレーン。彼女の歌声は人間集団を魅了する効果があるため、亜人界隈では高値で売買されている。しかし、セイレーンはかなり神出鬼没で、そもそも見つけることが難しい。その上、小瓶に歌を閉じ込めるとなったら、なお更大変なのだ。

「ショコラ、歌声はもう一度ゲットすればいいだろ!? 頼むよ!!」

 必死の形相で迫ってくる相棒に、乗り気でなかった彼女もついに折れた。

「……ったく、じゃあ今度はアンタ一人でやれよ」

 渋々そう言った彼女は、ティオの方に向き直る。

「そういうわけだ、坊主。アタシたちをここから出してくれないかい?」

 ティオはコロネが持っている小瓶を見つめた。セイレーンの歌声が手に入るなら、悪くはない。

「……分かった。ちょっと待ってて」

 姿を消したまま、彼は錠をピッキングし始めた。勝手に動く鍵と、不気味な音。傍から見れば、実におかしな場面だった。

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