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――直後、今度は強烈な雷撃がウルカの目を襲う。彼を逃がすまいと追撃してくるその光とともに、ブーツが舗装された地面を蹴る音が聞こえてきた。
「ようこそ、我が監獄へ」
落ち着き払った、青年の声。数十歩先から聞こえてくるその言葉には、ある種の自信のようなものが含まれていた。亜人を前にした人間の、圧倒的優越感。
「エルフか? ……まぁいい。侵入者は、気が済むまで叩き潰す」
流れるような白髪に、澄み渡る空のような瞳。アーネラの象徴である黒い軍服には、他の隊員と違って金の装飾が付いている。
周りの隊員は、彼が姿を現した途端、一斉にその場を離れた。……まるで、彼以外は必要ないとでも言わんばかりだ。
「私はシュアン。このクプ監獄の統括だ」
聞いてもいないのに、彼は自己紹介を始めた。自分の権限や強さを確かめるように、彼は言葉を噛み締める。
「わざわざ監獄に来るとは、収容を望んでいるとしか思えんな。それとも、私を楽しませようとでも考えているのか?」
ウルカは姿勢を低くしたまま、無言を貫いている。その様子を見て、シュアンは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「……気に入らんな、その態度。私の前にひれ伏せ!!」
――高圧的なそのセリフとともに生み出される、幾重もの水色の魔法陣。スキルを使わずに、これはどの数の魔法陣を出現させるとは、まさにアーネラの幹部に相応しい。
「……っ」
ウルカは懐から薬瓶を取り出して、相殺の構えに入った。あの色の魔法陣、おそらく氷属性魔法だ。正直、攻撃の半分も相殺できない。だが今回の目的は、やつの相手をすることではない。あくまで回避するだけで良い。
「くたばれぇっ!!」
――飛来する無数の氷のつぶて。一つひとつが凶暴な刃となって、ウルカの下に襲い掛かってきた。
一瞬の内に迫りくる、鋭い攻撃の数々。ウルカは宙に薬瓶を放り投げ、つぶての一つに思い切り叩き付けた。繊細な瓶はあっという間に割れ、赤い液体が可憐に空を彩る。次の瞬間、真っ赤な炎が夜空に開花した。
「……!?」
シュアンは現出した炎を見つめ、不審げに目を細めた。薬瓶から放たれる、神秘的な火属性魔法。……かつてこの世界が失ってしまった、調合技術の様相のようだ。
ウルカだけが知っている。薬瓶の中身は、濃縮された赤い花弁だ。驚くべき事実だが、雪をも溶かす神秘的な花が存在している。フェアリー族ならではの知識と、彼らの内で伝わった独自の技術。ウルカが使う魔法も、かつてこの世にいた自分の兄から教わったものだった。
「……貴様、ただのエルフではないな」
シュアンは後退したウルカをじろりと見つめ、そして怪しい笑い声を上げた。これは、良い獲物を見つけた。
「面白い!! 貴様には、純粋な敗北を与えてやろう!!」
彼は美しい瞳を大きく見開くと、巨大な魔法陣を召喚した。黄色の幾何学模様が監獄の空を覆い、膨大なエネルギーが渦巻き始める。
(これは……、ラパウィラか……!?)
ラパウィラ。非常に高火力な雷属性魔法。あの魔法陣から生み出される激しい閃光は、敵を余すことなく殲滅する。
避け切れなければ、確実に致命傷を受けるだろう。何としてでも回避しなければ。愉悦を浮かべるシュアンの前で、ウルカは小さく汗を流した。




