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ルラという大国でさえも、真夜中はしんと静まり返る。しかしその中でも、警戒の強い監獄の周辺は光に包まれていた。
黒いローブを纏ったウルカは、クプ監獄の荘厳な門の陰に隠れながら、じっとアーネラの隊員が通過するのを待っていた。ティオの班と別れてから、はや数十分。ヴァニラも彼の後ろで、姿勢を低くしている。
ライチの情報によると、E棟は向かって右奥に立地しているらしい。門から真っ直ぐ遠くを見遣ると、正面に大きな建物がある。そこから斜め右方向に視線をスライドさせると、確かに中規模の収容所があった。
まずは隊員を何人か錯乱させ、その内に右奥のE棟に向かう。鬼人らしき囚人がいる牢を解錠し、後は何とか吸血鬼が待機する場所まで誘導する。……ウルカが考えた案は、おおよそこのようなものだった。
案としてはいわゆる正面突破と呼ばれるもので、一か八か、賭けに出ると言っているようなものだ。しかし、いくら器用な侵入を試みたところで、結局は見つかってしまうのは分かり切っていた。人間の戦闘部隊相手にどこまで奮闘できるかは不明だが、何としても救出を成功させなければ。ウルカは右手に力を入れて、一人で小さく頷いた。
門の内側、左方の奥から、底の厚いブーツが地面を踏みしめる音が聞こえる。徐々に近づく、その足音。……ついに、アーネラ所属の隊員のお出ましだ。
ウルカは右手を銃の形に構え、人差し指に神経を集中させた。彼の得意とする、草属性魔法。手首を固定させ、空気に溶けるような声で緑の魔法陣を召喚した。
「ラアウ」
――魔法陣から出現した非常に細い針が、夜の闇を僅かに裂き、通り掛かった人間の右首筋に突き刺さった。暗闇に舞い散る、サルビアのごとき紫の花弁。「うっ」と短くうめいた彼は、その場にさっとしゃがみ込んだ。
「おい、どうした」
後方を歩いていたもう一人の隊員が、突然うずくまった彼に駆け寄った。怪訝そうな顔をしながら、黒い髪を垂らして覗き込むと……。




