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「ティオはルーチェとともにエハ監獄に入って、ルーチェの指示の下で仲間を救出しろ。俺はヴァニラとクプ監獄に行く」
ティオとヴァニラが小さく頷き、ルーチェは少し顔を引きつらせた。
「仲間の話だと、牢自体は種族ごとに分かれてるらしいぜ。鬼人なら鬼人同士、全員同じ牢に入れられてるってことだ」
「へぇ、一人部屋じゃないんだ。窮屈そう」
劣悪な環境下に置かれた亜人。その様相を想像したティオは、思わず顔をしかめた。
「脱出させた後は、ライチの仲間たちに頼ることになる。安全圏まで運んでもらいたいのだが、いけるか?」
そう言って左を向くウルカに、ライチは「任せろ」と言わんばかりににこっと笑う。
「話は既に通しておいたぜ。報酬が貰えるなら、別にいいってよ。ただ……」
語尾を濁しながら、彼はウルカの腕をギュッと掴んだ。
「おれ的には、ウルカの血が――」
「おまえは金貨十枚でいいよな?」
「……ケチ」
乱暴に報酬額を突き付けるウルカに、ライチは不満そうな顔をした。
「ちなみに聞くけど、ウルカたちはどうする予定なの?」
「警備員に成りすまして救出……ってわけにはいかないだろうな。なんせあこそで張ってるのは、アーネラの連中だからな。人間しかいないし、ウルカとヴァニラじゃムリだろ」
ライチの言うアーネラとは、ルラの戦闘部隊のことだ。戦力の高い人間のみで構成されたエリート集団で、アーネラという名前を聞くだけで、監獄内の亜人たちは脱走する気も失せるだろう。
「俺たちがやるとなると、囚人に成りすますしかないな。だがそれだと時間が掛かる。そうなると、やはり正面突破が一番速いだろう。アーネラの相手をするとなるとかなり厄介だが、どの道戦闘は避けられない。覚悟を決めるしかないな」
「ウルカ! なんかスパイっぽいことできないのか?」
「下手にこそこそ動くより、一気に侵入した方がいいんじゃないか?」
張り詰めた空気が流れる室内。ルーチェは代行業者と吸血鬼の顔を見て、不安そうな表情を浮かべた。
「おい……、本当に大丈夫なのか……?」
心細そうな言葉をつぶやく小さな依頼人に、ウルカははっきりとこう言い切る。
「依頼は何として完遂する。どんな手を使ってでもな」
締め切られた黒いカーテンから、微かな午後の光が漏れる。作戦決行の真夜中まで、あと十時間。ウルカはしがみついて離れようとしないライチを無理やり引きはがし、準備のためにゆっくりと立ち上がった。




