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人間が台頭した歴史と、亜人が奴隷として売買されるようになった歴史は、ほぼピッタリと重なる。その一大拠点として今も栄えるのが、世界的な大国・ルラだ。ウルカも何度か足を運んだことがあるが、亜人の身としては訪れて気持ちの良い国ではない。人間が住まう一等地に、国の縁辺部にある監獄。様々な地域で捕らえられた貧しい亜人たちは、概ねこの監獄に収容されることになる。ルーチェの仲間たちが連行された場所も、おそらくここであろう。……ここまでは、容易に想像できる。だが問題は、林立する四つの監獄の内、どこに収容されているかということだ。
「ウルカー!」
ルラの隣町にある、とある簡素な宿屋。ウルカ一行と依頼人のルーチェは、ここでとある人物と待ち合わせることになった。ウルカ的に言えば、「待ち合わせることになってしまった」の方が正しいが。
「おれに頼ってくれて、メチャクチャ嬉しいぜ!」
外の良い天気とは裏腹に、黒いカーテンで閉め切られた薄暗い室内。ウルカが扉を開けた瞬間、部屋の先客が勢い良く飛びついてきた。紫色の翼をパタパタさせながら、嬉しそうな声を上げる、ティオの友人で吸血鬼のライチ。今日も相変わらず、ウルカにベタベタとくっついてくる。
「……実に不愉快だが、おまえの得意分野だからな」
ウルカは何とか苛立ちを抑えながら、ライチに向かってにっこりと笑みを浮かべた。頼む側として、高圧的な態度は取れない。
「ウルカの頼みとあらば、おれは何でもするぜ!!」
左腕に擦り寄る、藤色の短髪。その軽々しい言動に、ウルカは思わず複雑そうな顔をした。
「なら、無駄な賭けごとは止めろ。俺が頼めば、何でもするんだろう?」
「うっ……」
ウルカの言葉にわずかにひるんだライチだったが、即座にこう言い返す。
「ウルカが血を吸わせてくれたら、考えてやってもいい!」
「……」
じっと見つめてくる彼の藍色の瞳に、無言で返すウルカ。隙あらば吸血を試みる彼に、内心うんざりしている。
「ちょっと、ライチ。話進まないから、そこら辺で切り上げてくれる? ウルカにくっついたままでいいから」
「おい……」
ウルカはティオの粗雑感に嫌悪を露わにしたが、「別にいいでしょ?」とあしらわれてしまった。
「オッケー。んじゃ、適当に座ってくれ」
実はこの宿、ライチがよく利用する場所なのだ。家の中らしくベッドを指差す彼に、遠慮なく毛布の上に座るティオとヴァニラ。ただ一人、状況に付いていけないルーチェだけが、扉付近でポカンとしていた。




