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「……分かったよ」
……数分後、ついに少年が言葉を絞り出した。ウルカの顔をきっと睨み付けながら、はっきりと言い切る。
「おれの角を報酬に、おれの仲間を救えよ!!」
甚だ人にものを頼む態度とは言い難いが、それでも少年は苦渋の決断をした。仲間の救出に比べたら、自身の誇りなど取るに足りない。
「分かった。この依頼、受けよう」
ウルカはゆっくりと頷いて、ヴァニラの方を向いた。「ヴァニラ」と声を掛けると、彼女は少年にずいと紙袋を差し出す。
「どこから逃げて来たのかは知らないが、腹が減っているだろう? 食え」
唐突に気遣いを見せるウルカに、少年は少し面食らったような顔をする。が、すぐに「ふん!」と言いながら、乱暴に紙袋を受け取った。
紙袋の中には、三日月の形をしたパンが何個か入っていた。バターの優しい香りが、ふんわりと漂っている。
「……うまそう」
思わずぽろっと零してしまった少年だったが、即座にはっと目を見開いて、「な、なんでもねぇよ!」と頬を赤らめた。どうやら不機嫌を続けたいらしい。
「そう言えばさ、名前、何ていうの?」
黙々とパンを食べ始めた彼に、ふとティオが尋ねた。目の前の鬼人の機嫌は、パンの効果で少しばかり直ったように見える。
「ノーチェ」
パンを頬張りながら、彼は答える。随分とお腹が空いていたらしい。
「ノーチェ? 可愛い名前だね」
「可愛くねぇよ!!」
「何で怒るの? 可愛いって、良いことだと思うけど?」
「良くねぇ!!」
「ふーん、変なの」
鬼人の少年・ノーチェと、謎多き青年・ティオ。二人の緊張感のない会話に、リーダーのウルカは静かに笑みを浮かべた。彼だって、別に明るい雰囲気が嫌いなわけではないのだ。




