19
「代行業者様、誠にありがとうございました」
討伐大会から二日後。ウルカは先日のギルドの応接間で、オレンジ髪の受付嬢エルフから報酬を受け取った。金貨十枚、確かに袋の中にある。
彼女の話によると、例のドラゴンはなんとか討伐されたようだ。その成果を讃えて、優勝賞品はドラゴン討伐に参加したパーティで山分けされたと。
「皆様中級パーティでしたのに、本当によくやってくださいました。特に、ハヴィカという名の青年剣士が奮闘してくださったようで……」
「そうか。それは良かったな」
ドラゴン族は討伐対象となっているモンスターの中では最も強力だ。それを中級パーティが倒したとなると、功績を讃えられるのは妥当だろう。
「ノアの死亡の件も彼から伺いました。ドラゴンに捕食させたのですね」
「俺たちは戦闘集団ではないからな。まぁ、『戦え』という依頼が来たら戦うが……。それでもドラゴンは厳しいな」
ドラゴン族は、まともに戦って勝てる相手ではない。それは、ウルカもよく知っている。だからこそ、ドラゴン退治の冒険者は、華々しく英雄扱いされるのだ。
「それでは、俺はこれで失礼する」
ウルカは深々とフードを被り直し、ドアノブに手を掛ける。兎にも角にも、依頼は完了した。
「……一つ、よろしいですか?」
そのとき、背中から受付嬢の声が聞こえた。何かを勘ぐるような、訝しげなトーン。
「貴方様……、エルフではありませんよね?」
ウルカはゆっくりと後ろを振り返り、真っ白な瞳で彼女の顔を見つめた。長い髪を垂らした彼女。その黄色の瞳は鋭く、表情も真剣だ。
「何故、そう思う?」
「貴方様の雰囲気でございます。同種族だと考えますと、どことなく違和感を覚えます」
……これには少し驚いた。今まで、違和の存在であると見破られたことはなかった。そう、エルフにさえも。
「差し支えなければ、教えてください。貴方様は一体、何者でございますか?」
このエルフの言動、そして洞察力。おそらく、並みの存在ではない。
「知りたいのならば教える。俺はフェアリーだ」
「えっ……?フェアリー……?」
彼女が困惑するのも無理はない。彼の背中に羽が生えていないとか、背丈が異様に高いとか、そのような些細な問題ではなく、そもそもフェアリー族は滅んだはずなのだ。千七百年前、人間によるジェノサイドで。
「あまり深く勘ぐるな。大した話でもない」
ウルカはそう言い捨てて、狭苦しい空間を後にした。日の当たる場所から、日の当たらない場所へ。それが、彼の日常だ。




