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「おーい」
例のダンジョンから大分離れた、鬱蒼とした森の道中。ウルカは後方から、ティオの呼び声を聞いた。ゆっくりと歩いてくる彼は、どことなく疲れているようだ。
「疲れているのか?」
そう尋ねると、彼は「まぁね」と言って曖昧に笑った。
「逃げ回る演技って、結構疲れるんだよね。スライムの大群を見つけたときも逃げ回ったし、アンデットをダンジョンから誘導するときも逃げ回ったし……。ウルカも今度やってみてよ。かなりの重労働だからさ」
「機会があったらな」
無事に合流した三人は、アジトに戻るために森を歩き始めた。遠くから、ドラゴンの咆哮が聞こえてくる。
「……で、結局依頼は完了したんだよね?」
「ああ。俺とヴァニラでターゲットをひるませて、後はレッドドラゴンのお世話になった。素の勝負では敵わないからな。油断の多いやつで、正直助かった」
「本当に。あ、あと、女の子に甘くて助かったね」
ティオはヴァニラを見上げ、にこっと微笑んだ。……しかしその直後、彼女が右手に掴んだものを見て、あからさまに嫌そうな顔をする。
「……ねぇ。何でターゲットの腕を持ち歩いてるの?」
生々しい、その右腕。直視していて気持ちの良いものではない。
「あのドラゴン、中々の強敵だからな。証人となる冒険者も、あいつの餌食になってしまう可能性があるだろう? これは、いわゆる証拠品だ」
「それは分かるけどさ! わざわざそのまま持ち歩かなくてもいいでしょ!? 何かに包んだりしてよ!」
「包まずとも、おまえの魔法で何とかなるだろう?」
ティオの使う光属性魔法は、この世界で唯一彼だけが使用できる、かつて滅んだはずの魔法だ。彼の手に掛かれば、光の屈折や反射、それを応用した反則級の防御なども、いとも容易くおこなえる。
「光の反射加減を工夫すれば、右腕が人々の視界から消える――」
「できるけどさ!! そんなことに魔法を使わせないでよ!!」
途端に不機嫌になる彼を見て、ウルカは渋々フードを外し、ヴァニラに手渡した。彼女によって隠れていく腕を確認して、ティオは「はぁ」と息を吐く。
「何回も言ってるけど、光属性魔法は尊大なんだからね? そこら辺の魔法と一緒にしないでよ!」
「そうだったな、すまないすまない」
「もう! 本当に分かってるの!?」
じりじりと詰め寄ってくるティオ。光属性を使えるというプライドは、当然並大抵のものではない。これは長くなりそうだ。ウルカは適当に返事をしながら、心の中でため息を付いた。




