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ダンジョンの付近には、複数のパーティが押し掛けていた。先ほどの叫びを聞いて、近場にいた冒険者が一斉に集まってきたのだろう。
「師匠ーー!?」
「師匠、いらっしゃいますか!?」
……二人はノアを探し、そして目を見開く。彼女たちの前方には、巨大なレッドドラゴンが。あのような荘厳な体躯が、あのダンジョンの内部に隠されていたのだ。
「みんな、注意しろ!! 協力して、確実に仕留めるぞ!!」
とあるパーティの青年剣士が、全体に注意を喚起した。ドラゴンはようやく解放されたと言わんばかりに、両翼を大きく広げている。
「ああ!! こうなってしまったら、討伐大会など気にしていられないな!!」
「後方援護は任せて!!」
他の冒険者も、彼の言葉に次々と返答する。彼らはいわゆる中級パーティ。コアの取り合いなどしていたら、その命まで奪われかねない。
多くの好意的な同意を聞き、剣士はゆっくりと頷いてドラゴンのほうを向いた。
「くれぐれも、気を抜くな! やつは強敵だ。あの有名なノアを捕食したんだからな!」
「……え?」
「……は?」
二人の愛弟子は、彼の言葉に思わず耳を疑った。信じられないようなその内容に、茫然自失しないわけにはいかない。
「い、今! 今何て……?」
ミミは咄嗟に剣士に詰め寄り、彼の肩を乱暴に掴んだ。彼の驚いた顔を無視して、必死に言葉を繰り返す。
「今、師匠が……、ノアが捕食されたって……!」
「あ、ああ……。あのドラゴンがダンジョンから出てきたとき、人間の左腕を吐き出したんだ。俺は詳しく分からなかったんだが、仲間がその腕に付いたバングルを見て、『これ、あのノアの腕じゃない!?』って言ったんだ。だから……」
聞くや否や、二人は彼を押しのけて走り出した。「あ、おい!」という制止の声など気にも留めず、ひたすらノアの影を探した。
「うそ!! うそだ!! 師匠がドラゴンにやられるはずがない!!」
ミミは瞳に涙の粒を浮かべる。他を圧倒するような魔力の持ち主、それが師匠・ノアだ。戦闘で死ぬことなど、決してあるはずがない……。
……しかし、それが一番の慢心だったのだ。魔力は強くとも、彼は所詮人間だ。不死身でも何でもない。負けを知らないということが、どれだけの悲惨さを孕んでいることか……。
「し、師匠……」
リリとミミは、ドラゴンの真下で硬直した。ダンジョンから出現したばかりの敵の足元には、冷たくなった人間の左腕が落ちている。噛み千切られた、無残な片腕。鮮血に染まった、哀れな肉片。その細い手首には、赤が飛んだ黄金のバングルが、確かにそこにあった。
「あ、ああ……」
嗚咽を漏らして、脱力するミミ。下を向いたリリは、ドラゴンに構わず涙を零した。
「うっ……。ううっ……」
頭上で吠えるレッドドラゴン。「来るぞ!」と身構える青年剣士の声。……認めざるを得ない現実とは、彼女たちにとってひどく重苦しいものだった。




