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……一体、どれほど戦っただろうか。邪悪な気配を纏ったアンデットは、リリとミミの必死の攻撃により、ついにおぞましい断末魔を上げながら消滅した。ゴロンと落ちる赤いコア。何とか、倒すことができた。
「や、やった……」
へなへなとその場に倒れ込むミミ。リリも肩で息をしている。二人にとって、これは思わぬ長丁場だった。
「ううぅっ……。お姉さんたち、本当にありがとう……」
茂みに隠れて怯えていた青年魔導士は、アンデットが消滅したのを目視して、ようやく姿を現した。目には大粒の涙を浮かべている。よほど怖かったのだろう。
「いやぁ、びっくりしたわよ……。まさか、こんなところにアンデットがいるなんて……」
「まぁ、倒せたからいいんじゃない? ほら、コアも手に入ったし」
ミミとリリは口々に喋り、互いに顔を見合わせる。「たまには、協力するのも悪くない」。青年を庇ってアンデットを倒したことで、二人の間に微かな友情が生まれた。
「……あっ!! 早く師匠のところに戻らなきゃ!!」
休憩モードに入らんとしていたが、勝手に場所を離れた以上、ノアに心配をかけるわけにはいかない。ミミは「しまった!」と言いたげな声で、いそいそと来た道を戻った。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
リリもコアを片手に、急いでミミの後を追う。その後ろでは、青年が「本当に、本当に、ありがとうーー!!」と叫んでいた。……謎の笑みを浮かべながら。
「師匠ー?」
「……いないわね」
元の場所に戻ってきた弟子二人組だったが、そこに師匠・ノアの姿はなかった。
「もしかして、先にダンジョンに行っちゃったとか?」
「まさか! 師匠が私たちを置いていくわけないじゃない!」
ミミの予想を、リリは即刻で否定する。彼は弟子想いなのだ。断りもなく勝手にダンジョンに向かうなんて真似はしない。
「けど、どこにもいないわよ? もうダンジョンに行ったとしか考えられないじゃない!」
「ミミ、ちょっと落ち着きなさいよ。まずは状況を整理して――」
「大変だーー!! ど、ドラゴンが……、レッドドラゴンがダンジョンから出てきたぞーーっ!!」
――リリの呆れたような声色は、男性冒険者の驚嘆によって掻き消された。
「なっ……! レッドドラゴンですって!?」
「リリ! 行こう!」
師匠が狙っていたモンスターが、なんとダンジョンから出現したらしい。もしかしたら、彼の仕業かもしれない。二人は全力で森を駆け抜け、冒険者の声のする方へと急いだ。




