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ごつごつとした石垣を携えた、薄暗いダンジョンの入り口。深部にまでつながるその穴の前に、ノアと獣人の少女は立っていた。
「リリ、ミミ……。今行くからな……!」
弟子たちが勝手にダンジョンに潜ったと思い込んでいるノアは、入り口の前で静かに意気込んだ。今まで特段苦労したことがないとは言え、難関なダンジョン内で気合も入る。グッと右手に力を入れて、「よし」と頷いた。
「ちょっと待っててね。すぐに仲間を助けてくるから」
彼は少女の方を向いて、優しく語り掛けた。知り合ったばかりの彼女をダンジョンに連れ込むのは、あまりにも危険だ。入り口で待ってもらった方が良い。
……しかし、彼女は首を横に振った。大きな両耳と赤い髪を揺らしながら、彼の提案を拒否し始める。
「この中は危険だ。俺は、君に危ない目に遭って欲しくないんだよ」
何度も諭したが、少女は言うことを聞かない。茶色い瞳を大きく開いて、「一緒に連れて行って」と懇願してくる。
(どうする……?)
ノアはしばし迷った。……が、結局は彼女を連れて行くことにした。自分が彼女のことを守りながら、慎重に進めば良いではないか。いや、それしかない。
「……分かった。ただし、俺の傍を離れないこと」
そう言うと、彼女はにっこりと笑った。無邪気なその笑顔。ノアと一緒にいられることが、何よりの幸せのように映った。




