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「はぁ……はぁ……」
疲れ切った様子の青年。スライムとの鬼ごっこで、随分と体力を消費してしまったらしい。
「お姉さんたち強いね……。僕、全然ダメダメだよ……」
疲労を一切見せないリリとミミをちらりと見て、彼は諦めたような瞳をする。左右に編み込まれた短い三つ編みが、儚げに小さく揺れた。
「村のみんなにも言われたんだ。『おまえは絶対、冒険者に向いてない』って。だけど無理やり冒険者になって……、このザマだもん。あはは、お笑いだよね……」
意気消沈とする彼。早くも冒険者としての壁に突き当たってしまったようだ。
「気にすることないわよ。私だって、昔は弱かったし」
泣き出しそうな彼を見て、ミミが慌ててフォローに入る。さすがにスライム相手に逃げ腰ということはなかったが、彼女だって師匠のノアと出会う前はへっぽこだったのだ。
「君、まだまだ初心者みたいだし、これからだよ、これから!」
「そうね。もっと魔法の勉強をしなさいよ」
隣のリリも口を挟む。口調はややきついが、これも彼女なりの気遣いだ。
「……ありがとう」
二人の言葉を聞いて、赤目の青年は嬉しそうに顔をほころばせた。
「うん。僕、もっと頑張るよ――」
――彼の意気込みを遮るように、突如出現したモンスター。……なんと、巨大なアンデットだ。
「うそ!?」
ミミは思わず目を見開く。アンデットはダンジョン内でしか出現しないはずなのに、何故このような場所にいるのだろうか。
「ひっ……!!」
恐るおそる後ろを振り返った銀髪の青年は、一瞬でその可愛げのある顔を引きつらせる。とてもではないが、初心者が敵う相手ではない。
「下がって!!」
アンデットは三人を見つけるや否や、闇属性の魔法陣を召喚した。リリは咄嗟の判断で青年を後ろに下げ、氷属性の魔法で敵の攻撃を相殺する。決して相性が良いわけではないが、彼女の得意な属性魔法なのだ。
「何でこんな場所に、アンデットが……!?」
「そんなこと言ったって、いるんだから戦うしかないでしょ!?」
未だに疑問符を浮かべているミミを、リリは一喝する。相手が戦闘態勢に入っている以上、迷っていたら確実に殺されてしまう。
「わ、分かってるってば!!」
ミミも慌てて気を引き締めて、精神を統一させた。師匠の下に帰る前に死んでしまっては、最早話にならない。ここはしっかりと、やつを倒さなければ。普段はいがみ合っている二人の弟子は、こうして手を組むことになった。




