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「全く、仕方ないわね!」
青年の不憫さに耐え切れず、ミミはばっと駆け出した。自慢の軽い身のこなしで、魔法を使わずにスライムたちを蹴散らしていく。
「……はぁ」
リリはため息をついたが、すぐに魔法を詠唱して彼女の援護をする。鋭い氷の矢が一斉に宙を舞い、スライムたちは跡形もなく消え失せた。小さな青黒いコアだけが、辺りに転がり落ちる。
「ありがとう、お姉さんたち!」
ようやく危機から解放された青年は、満面の笑みを浮かべて深々と頭を下げた。その小柄な体格も相まって、実に可愛らしい。
「本当、気を付けなさいよ。仮にも、魔導士みたいな格好しているんだから……」
リリが呆れたようにつぶやくと、彼は「えへへ」と言いながら、照れくさそうに頭を掻いた。
「実は僕、冒険者になったばっかりなんだよね。パーティの仲間もみんな初心者でさ、スライム相手に散りぢりになっちゃったんだ」
「えっ? じゃあ、他の仲間もスライムに追われているの?」
少し驚いた声を出すミミ。スライムも倒せないパーティ……。実に危険だ。
「そう、そうなんだよ!! 助けに行かなきゃ!!」
彼女の疑問を聞いて、思い出したかのようにさっと青ざめた青年は、途端に奥へと駆け出していった。……しかし数秒後には、再び例の悲鳴を上げる。
「ぎゃあぁぁぁ!! またスライムがあぁぁぁ!!」
「……何なのよ、あいつ」
へぼ魔導士の情けない叫びに、リリはやれやれと肩をすくめた。こうなってしまったら、見捨てるわけにもいかない。彼女は隣のミミと頷き合い、初心者冒険者の下へと駆け寄った。




