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リリとミミは、果たしてダンジョンへと赴いてしまったのか。その答えは、ノアが茂みへと隠れたほんの数分にあった。
「師匠、平気かな……」
何の魔法の気配も見えない茂みに対し、ミミは心配そうな顔をする。ノアは率先して戦闘を買って出る。だからこそ、彼女が不安になることもあるのだ。
「あなたが心配するまでもないと思うけど?」
対するリリは余裕の表情。信頼する師匠が危険な目に遭うなど、彼女には想像もできない。
「……やっぱ、あんた、ムカつくわ」
相変わらずの棘のある言い方に、ミミは図らずもイラついてしまう。一番弟子の彼女は確かに強いが、自分だって毎日鍛錬を積んでいるのだ。何なら今ここで、決着の一つでも付けてやろうか。そう思いながら、ギュッと拳を握りしめたそのとき――。
「うわあぁぁぁっ!!」
――突然、ノアが進んだ方向とは反対の茂みから、少年のような叫び声が聞こえてきた。何かに襲われているかのごとく、必死な彼の悲鳴。彼女たちは即座にその声に反応し、がさっとその方向に飛び込んだ。
「た、助けてーー!!」
見ると、小柄な青年がスライムの大群に追い回されていた。銀髪と魔導士のローブを揺らしながら、懸命に足を動かしている。彼の赤い瞳には、小さい涙が浮かんでいた。スライムは下から数えた方が早いほどの低ランクモンスターだが、彼は初心者なのだろうか。
「えぇ……? ちょっとちょっと……」
あまりにもおかしな光景に、リリは困惑を露わにする。立派な格好の魔導士があのザマとは、まさに見掛け倒しだ。
「お姉さんたちーー!! 見てないで助けてよーー!!」
彼女たちの気配に気付いた彼は、必死に懇願してくる。プライドのプの字もないようだ。




