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「リリー、ミミー」
兎にも角にも、茂みの中にいたのはモンスターではなかった。そう思いながら、ノアは二人のいる場所へと戻ったのだが……。
「……あれ?」
……そこには、誰もいなかった。「師匠!」の声は聞こえず、耳に入るのは木々が葉を揺らす音ばかりだ。
「どこに行っちゃたんだよ……」
彼がそう言って腰に手を当てると、後ろからついてきた獣人の少女は不思議そうに首をかしげた。「仲間がいる」と言ったのに、これでは嘘になってしまう。
「ごめんね。ちょっと探してくるよ」
ノアは彼女の顔を覗き込み、申し訳なさそうに手を合わせた。全く、世話の掛かる弟子たちだ……。
ノアの様子を見た少女は、突然くんくんと鼻を動かし始めた。ノアの周囲をぐるぐると回り、丁寧ににおいを嗅いでいる。
「な、何だ……?」
彼が驚きの色を見せた直後、彼女はすっと顔を上げ、真っ直ぐに前方を指差した。その先には、例のダンジョンがある。
「え……。まさか、二人がそっちにいるって……?」
そう言うと、彼女は大きく頷いた。さすがは獣人の鼻。ノアと他の仲間の匂いを嗅ぎ分け、行き先を特定したらしい。
「すごいな! ありがとう!」
ノアの言葉に対し、にこりと微笑む少女。美人のその微笑みに、彼も思わずほころんだ。
「早速向かおう!」
ノアは新たに仲間になった彼女とともに、急いでダンジョンの方へと駆け出した。自慢の弟子たちだが、あのダンジョンは危険だ。大変な目に遭わない内に、彼は彼女たちと合流したかった。




