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「ぐうぅぅぅっ……」
――そのとき、ノアの耳に動物のうなり声が飛び込んできた。直後、彼は警戒態勢に入る。高難易度のダンジョンの付近には、強力なモンスターが出現することも多い。
「二人とも、気を付けて!」
彼は弟子たちをその場に待機させ、ゆっくりと茂みへと入り込む。魔法の詠唱手順は、全て頭の中に入っている。モンスターの姿を目視した瞬間、魔法陣を召喚して――。
「……え?」
――茂みをかき分けたノアは、少し拍子抜けしたような声を出した。そこにいたのは、おぞましい獣ではなく、スタイルの良い獣人の少女だった。狼のような灰色の耳に、大きな尾。赤毛のショートヘアは、彼女の容姿によく似合っている。武術に長けたような格好を見るに、おそらく冒険者だろう。
「君、どうしたの?」
そう話し掛けてみるが、彼女は何も答えない。彼の顔を睨み付けて、ずっと低くうなっている。
(この子……。もしかして、パーティを追放されたのかな?)
ノアの頭の中に、「追放」の二文字が浮かび上がる。獣人や亜人は人間にこき使われやすいと、以前耳にしたことがある。目の前の彼女も、囮か何かに使われたのかもしれない。
「俺はノア。安心して、君の味方だよ」
「……」
彼が黄金のバングルを光らせながら、優しく左手を差し出すと、狼少女はうなるのを止めた。じっと手の平を見つめて黙り込んでいる。
「大丈夫だよ。行く当てがないなら、俺と一緒に行こう」
そう言って、穏やかに促す。すると、恐るおそるではあるが、彼女が手を握り返してくれた。きっと、人間が怖いのだろう。彼女の境遇を察し、ノアは思わず同情した。
「向こうに、俺の仲間がいるんだ。付いてきて」
ゆっくりと少女の手を引き、彼はリリとミミの下へ帰る。何もしゃべらない彼女。一緒に冒険をすれば、心を開いてくれるだろうか……。




