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この大会も、余裕で優勝だな。ノアの慢心は、その圧倒的な魔法の才能に起因していた。
黒い瞳に、特徴のない黒髪。並みの冒険者と同じような格好の彼だが、その左手には黄金のバングルが輝いている。これは、ギルドを統括するカウラナという組織から贈呈される、最優秀冒険者の証だ。
彼は今、仲間とともにダンジョンへ向かっている。鬱蒼とした森の奥にある、ぽっかりと空いたようなそのダンジョン。そこら辺の冒険者では踏み入れることさえも躊躇するような、レッドドラゴンのいる場所だ。
「師匠の強さなら、この先のダンジョンにいるモンスターも、全然問題ありませんね!」
そう零すのは、ノアの弟子のリリ。ピンクのロングヘアをいじりながら、何故か自慢げに言葉を発する。それは当然、彼が負ける姿など、今まで一度も見たことがないからだ。
「そうですね! ……ですが、今回は私たちにやらせてくださいよ。だって、いつも師匠ばっかりじゃないですか」
こう話すのは、水色のショートヘアのミミ。彼女もノアの弟子だ。
「けど、今回はレッドドラゴンだよ? さすがに無理じゃないかなぁ」
曖昧に拒否すると、途端にミミは不機嫌そうな顔をした。リリに負けたくないという思いが、最近より一層増しているようだ。
「そんなことないです! 私、日々師匠に鍛えてもらってるんで」
そう言いながら、ちらちらとリリを見る彼女。「あんたより強いのよ」、そう顔に書かれている。
「……何よ、ミミ。言いたいことがあるなら、直接言いなさいよ」
矮小な対抗心に、リリは薄ら笑う。彼女はミミよりも長くノアと旅をしている。つまり、彼女がミミに負けるはずなどないのだ。色々な意味で、彼女は常に一歩リードしている。
「別に、ないけど」
「そう? 遠慮しなくてもいいのよ?」
「……」
刹那、場の空気が張り詰めた。リリの勝ち誇ったような顔に、ミミが飛び掛かりそうになっている。
「まぁまぁ、落ち着けって。ケンカしたってしょうがないだろ?」
険悪な雰囲気になった弟子たちの間に、ノアはすかさず割って入った。最近は、この流れが鉄板になってしまっている。彼的には、弟子同士仲良くして欲しいものだ。




