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「さて、俺たちも行くぞ」
ウルカはフードを被り直し、ティオとヴァニラの顔を見る。タイムリミットは翌日の午前十時。それまでに、ターゲットを殺害しなくてはならない。
「彼の後を追うの?」
ティオの視線の先には、偶然にもノアとそのパーティがいる。黒髪短髪の少年と、それを取り囲む二人の少女たち。あの緊張感のない面持ちの彼こそが、今回の殺害対象だ。
「いや、先回りする。あいつの行くところなど、推測するまでもないからな」
ウルカはエントリーシートの最上部を一瞥した。荘厳な体躯のレッドドラゴン。桁外れの魔力の持ち主が、ちまちまBランクのモンスターを討伐するはずがない。
「分かった。けどさ、女の子たちはどうするの? あの子たちも殺しちゃうの?」
嬉しそうにノアに話し掛ける、健気な少女たち。生かすか殺すか。彼女たちのためになるのは、一体どちらだろうか。
「ターゲットはあいつだけだ。余計な人間を殺したところで、金にならない」
ウルカは至って平常運転で、情の欠片も見せない。その返答に、ティオは小さく笑った。
「はぁ、やっぱりね。じゃあ、どうするの?」
「一芝居打って、ターゲットだけを引き離す。ティオ、ヴァニラ、よろしく頼む」
「いいよ。僕、かなりの演技派だからさ」
女装さえもお手の物のティオは、ウルカの言葉ににっこりと笑みを浮かべる。「冒険者ごっこ」などと揶揄する彼だが、結局は楽しんでいるようだ。
「ヴァニラ、任せた」
ヴァニラはすっと顔を上げて、無言でウルカの白い瞳を見つめている。これは、「了承」の意味だ。
ウルカは二人の同意の下、他の冒険者とともに歩みを進めた。向かうは近場の大洞窟、レッドドラゴンの潜む場所。人々が「ダンジョン」と呼ぶところだ。




