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クーリア嬢は、カレ公爵から少し離れた場所にいた。アップにした黒い髪と、赤色の美しいドレス。彼女の茶色がかった大きな瞳は、健気な印象を感じさせる。特に際立った雰囲気があるわけではないが、異世界から来たかのような、どこか独特な気配を放っていた。
彼女は満たされたような、それでいて憂いているような表情をしている。カレ公の愛情は嬉しいが、少々鬱陶しいといったところだろうか。
「お隣、よろしいですか?」
ティオはため息でもつきそうなその顔に向かって、にっこりと微笑み掛けた。許可をもらうや否や、親しげにぴったりと横に付く。
「えっと、あなたは……?」
「初めまして。モアナ侯爵の娘です」
「はぁ、初めまして……。私はクーリアです」
もちろん、架空の人物だ。しかし彼女の顔を見るに、それが嘘だとは分かっていない。依頼人が「出自不明の女」と言っていたので、適当でもバレないだろうと踏んだのだ。
「カレ公爵とご結婚なさるとお聞きしたので、お祝いの言葉を申し上げたくて」
「ありがとうございます。自分でも信じられないぐらいです」
無邪気さを装って明るい言葉を与えると、クーリアははにかみながら照れくさそうに下を向いた。
「私、元々ただのメイドだったんです。何の取柄もない、ただのメイド。だけど公爵は、こんな私にも優しくしてくださって……。いつの間にか、結婚することになったんです」
穏やかな口調で話す彼女は、決して悪い女ではない。むしろ、華々しいまでのシンデレラガールだ。だが現実は、決して物語のようにはいかない。幸運はときに不幸を招く。
「メイドから貴族の正妻ですか。このような奇跡、滅多にありませんよ。本当に、おめでとうございます」
ニコニコと笑みを送った後、ティオは「そうだ」と言いたげな表情でそっと左手を差し出した。その手の平には、美しい輝きを纏う黄金のコインが一枚。
「これ、私からのプレゼントです。どうぞ、お幸せに」
クーリアは小さく首をかしげたが、特に怪しむ様子もなくコインを受け取ろうとした。警戒心の欠片もなく、「ありがとうございます」と言いながら、左の親指と人差し指で摘まもうとしている。




