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異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
7-偏愛の執着
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19

 ウルカはハヴィカが善意で寄越した仲間とともに、陰気な細い道を進んだ。天井から垂れる雫が、何とも不気味だ。

 一緒に行動して分かったのだが、アーサーやソフィといった人間も、あまり亜人に偏見がないタイプだった。最初こそぎょっとしていたものの、今は吸血鬼たちの血の話に付き合っている。

「最近はさぁ、エルフも捕まえにくくなっちまって、中々大変だぜ」

 ライチがぼやくと、ソフィが真剣な顔で質問する。

「あなたたちって、血が主食なの? 血を吸わないと、死んじゃうってわけ?」

「いや、別に普通の飯でもいいんだけどよ。まぁ簡単に言うと、吸血した方が元気になるって感じか?」

「そーそー。人間だって贅沢するだろ? おれたちも、大体そんな感じだ」

 もう一人の吸血鬼はそう補足し、じっとアーサーの容姿を見つめた。正統派冒険者のような格好をしている。

「何だ? もしかして、俺の血が吸いたいのか?」

 彼は物分かりが良いようで、構うことなく左腕の袖を捲った。

「えっ!? マジで!?」

「ああ、いいぞ!」

 人間の珍しい快諾に、彼は瞳を輝かせた。「じゃあ、遠慮なく!」と言って、今にも飛び掛かろうとする。

「止めておけ。吸血鬼に血を吸われると、しばらく動けなくなるぞ」

 ウルカはアーサーの好意に忠告を飛ばし、紫髪の吸血鬼の服を掴んだ。ダンジョン内で動けなくなる冒険者など、はっきり言って致命的だ。

「えっ!? ウルカ、何で知ってるんだよ!?」

「当たり前だ。俺が何年生きていると思っている」

 ライチの驚きに対し、彼は冷たい視線を送る。この吸血鬼たち、重要なことを教えずに、ちゃっかり吸血しようとしていたらしい。

「おいおい、マジかよ……」

 アーサーは袖を戻しながら、「危なかった」と言わんばかりに首を傾けた。吸血鬼と接点のない人間には、耳に入らないような裏情報だ。

「他の人間にも、しっかりと伝えておけ。『吸血鬼は狡猾な集団だ』と……」

「おい、ウルカ! 余計なこと言うなよ!」

 ウルカの冷淡な一言を聞いて、ライチが腕をがしっと掴んでくる。

「悪い噂が立っちまったら、おれたち人間に殺される!!」

「悪評が立つのが怖いなら、いちいち吸血を迫るな。多少なりとも我慢しろ」

 吸血鬼たちはブツブツと文句を垂れ流していたが、ついに吸血から話題を反らした。今度は、人間の話に付き合うことにしたらしい。

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