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ウルカはハヴィカが善意で寄越した仲間とともに、陰気な細い道を進んだ。天井から垂れる雫が、何とも不気味だ。
一緒に行動して分かったのだが、アーサーやソフィといった人間も、あまり亜人に偏見がないタイプだった。最初こそぎょっとしていたものの、今は吸血鬼たちの血の話に付き合っている。
「最近はさぁ、エルフも捕まえにくくなっちまって、中々大変だぜ」
ライチがぼやくと、ソフィが真剣な顔で質問する。
「あなたたちって、血が主食なの? 血を吸わないと、死んじゃうってわけ?」
「いや、別に普通の飯でもいいんだけどよ。まぁ簡単に言うと、吸血した方が元気になるって感じか?」
「そーそー。人間だって贅沢するだろ? おれたちも、大体そんな感じだ」
もう一人の吸血鬼はそう補足し、じっとアーサーの容姿を見つめた。正統派冒険者のような格好をしている。
「何だ? もしかして、俺の血が吸いたいのか?」
彼は物分かりが良いようで、構うことなく左腕の袖を捲った。
「えっ!? マジで!?」
「ああ、いいぞ!」
人間の珍しい快諾に、彼は瞳を輝かせた。「じゃあ、遠慮なく!」と言って、今にも飛び掛かろうとする。
「止めておけ。吸血鬼に血を吸われると、しばらく動けなくなるぞ」
ウルカはアーサーの好意に忠告を飛ばし、紫髪の吸血鬼の服を掴んだ。ダンジョン内で動けなくなる冒険者など、はっきり言って致命的だ。
「えっ!? ウルカ、何で知ってるんだよ!?」
「当たり前だ。俺が何年生きていると思っている」
ライチの驚きに対し、彼は冷たい視線を送る。この吸血鬼たち、重要なことを教えずに、ちゃっかり吸血しようとしていたらしい。
「おいおい、マジかよ……」
アーサーは袖を戻しながら、「危なかった」と言わんばかりに首を傾けた。吸血鬼と接点のない人間には、耳に入らないような裏情報だ。
「他の人間にも、しっかりと伝えておけ。『吸血鬼は狡猾な集団だ』と……」
「おい、ウルカ! 余計なこと言うなよ!」
ウルカの冷淡な一言を聞いて、ライチが腕をがしっと掴んでくる。
「悪い噂が立っちまったら、おれたち人間に殺される!!」
「悪評が立つのが怖いなら、いちいち吸血を迫るな。多少なりとも我慢しろ」
吸血鬼たちはブツブツと文句を垂れ流していたが、ついに吸血から話題を反らした。今度は、人間の話に付き合うことにしたらしい。




