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「……っと、いけない」
彼はすっと背後に右手を回し、現れた狼モンスターへと構えた。磨かれた美しい刃が、薄暗いダンジョン内でキラリと光る。
「アーサーとソフィは魔法を詠唱しろ! ノーシスは援護を頼む!」
「おう!」
「任せて!」
アーサーと呼ばれた男冒険者は、左手を突き出して雷属性魔法を詠唱した。
「ヘキリ!」
――宙を裂くような閃光が走り、モンスターの足を素早く止める。彼らは進路を邪魔され、「ぐううっ……」とうなり声を上げた。
「ウェウ!」
続けざまに、ソフィの名を持つ女冒険者が、茶色のポニーテールを揺らしながら両手を突き出した。魔法陣から鋭い草の刃を生み出し、モンスターに対して攻撃を浴びせる。
「があうっ……!!」
皮膚を裂かれたモンスターが怒りを露わにし、最前線で剣を構えているハヴィカに向かって襲い掛かってきた。
「ウハネ!」
次の瞬間、ノーシスがハヴィカに対して増強魔法を掛ける。まばゆい光に包まれた彼は、目にも止まらぬ速さでモンスターへと突っ込んでいった。
「があっ……!」
――刹那、まさに一瞬。何体ものモンスターは、力なくその場に倒れ込んだ。彼らの肉体はシュウッと消え、赤茶色のコアがゴロンと転がり落ちる。
「よし。みんな、やったぞ」
ハヴィカはコアを手に、仲間たちに終了の合図を出した。剣を背中に収め、仲間に労いの言葉を掛ける。
「お疲れ様。いい動きだった」
「へっ、まぁな」
「いつも通り、やっただけよ」
得意げな表情を浮かべるアーサーとソフィに向かって、彼はうんと頷いた。そして、後方でじっとしているノーシスの方へと近づく。
「ノーシスも、お疲れ様。増強魔法のタイミング、良かったぞ」
「ハヴィカ……。わたし、役に立ってる……?」
不安そうな顔をする彼女の肩を、彼は優しく叩いた。
「ああ。もちろんだ」
……ノーシスの顔が、ぱあっと明るくなる。心の底から、彼女は喜びを感じていた。
「お兄さんたち、強いねー!」
ティオは無邪気な声を上げ、ハヴィカたちの方へと駆け寄っていく。
「僕、あんな剣術、見たことないよ!」
「幼い頃から練習している技なんだ」
「へー!」
弟のようにハヴィカの横にくっ付く彼に、ウルカは白けた視線を送った。
(あいつ、新しい友人でも作るつもりか……?)
ちらりと目線を移した先には、相変わらずベタベタと寄ってくるライチの姿。彼だって、ティオが五十年ほど前に親しげに会話をしたのがきっかけだった。
(人間は確かに役に立つが……、面倒人が増えるのはごめんだ)
ウルカは内心そう思いながら、ライチを力づくで引き離そうとした。




