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そのダンジョンは、カプの中でも難関に位置するダンジョンらしく、今から潜入しようとしているパーティが気合を入れていた。
「ウルカ、ターゲットはどの辺りにいるかな?」
「分からん。しばらくはヴァニラに頼ることになるな」
ウルカがぽんと肩を叩くと、ヴァニラは小さく頷いた。彼女の鼻は非常に頼りになる。
「よし、行くぞ――」
――直後、彼はライチに脇を突かれた。
「何だ」
そう言って横を見ると、先ほど気合を入れていたパーティがこちらに近寄っている。
「すみません。もし良かったら、一緒にこのダンジョンに潜入しませんか?」
リーダー格の青年剣士が、ウルカに対して気さくに声を掛けてきた。小豆色の髪の毛を印象良く後ろで結んだ彼は、蜜柑色の瞳でウルカ一行を見回す。
「お節介かもしれませんが……、あまりにも軽装備だなと思ったので。そのまま潜ったら危険ですよ?」
この剣士は、あくまで親切だ。ウルカたちの様子を、ありのままに述べている。
「おい、ハヴィカ。行動人数が多くなると、モンスターに遭遇しやすくなるぞ?」
「うん……。危険……」
「それにさぁ、いかにも『お守りしますよ!』的な感じだけど、私たちだってそんなに強くないわよ?」
後から追いかけきた三人の仲間が、口々に忠告する。ウルカたちを合わせたら、九人の大人数になってしまう。身軽に動けない危険性がある。
「みんなの言いたいことは分かる。でも、俺たちだけが良ければ、それでいいのか? 俺はそうは思わない」
ハヴィカの瞳はキラキラと輝いている。何の悪意もない、純粋な眼差し。
(……俺からしても、こいつの気遣いは大きなお世話なんだが)
ウルカは心の中でため息をつき、剣士・ハヴィカの背負った剣を見つめた。どこかで聞いたことのある名前だと思ったら、例の冒険者殺しのとき、レッドドラゴンを倒した青年だった。
「ノーシス、俺たちの未来を『予知』してくれ。この人たちと行動したら、まずいことになるか?」
オリーブ色の髪の少女は、彼の言葉を聞いて、黒い瞳を大きく動かした。スキルを発動させて、直近の未来を視通す。
「……今のところ、悪い運命は視えない」
「ほら、な? ノーシスもこう言ってるし」
ハヴィカの嬉しそうな顔に、他の仲間も渋々頷いた。ウルカの同意を得る前から、彼らはともに行動する気になってしまったようだ。
「悪いが、俺たちは――」
「わー! お兄さんたち、一緒に来てくれるの? ありがとう!」
ウルカの言葉を遮ったのは、満面の笑みを浮かべたティオ。「どういうつもりだ」と冷ややかな視線を送ると、何故かウインクを返された。何か、策でもあるのだろうか。
「よし! それじゃあ、一緒に行きましょう!」
ハヴィカは元気の良いポーズを取ると、先陣を切って歩き始めた。待ち構えるのは、モンスターの巣窟、奥深いダンジョンだ。




