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異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
1-他人の不幸は蜜の味
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5

 レオの都の中心部。普段から高貴な雰囲気が漂うこの一角は、今夜は特に美しい。カレ公爵の屋敷から溢れてくる音楽が、いつにも増して優美だからだ。


 舞踏会が開かれているダンスホールには、大勢の客人が集まっていた。オープニングセレモニーを終えた彼らは、イブニングドレスやタキシードを装い、上品なオーラを纏いながら踊っている。

 その中に、銀の盆を持ったウエイターがいた。長く編み込まれた黒い髪と、真っ白な瞳。あたかも使用人のエルフのように振る舞っているウルカは、客に支給を済ませつつ、ホールの片隅にいたティオの元へと近づいていく。

 相手を探しつつ休憩している素振りの彼は、見事なまでの女装術を披露していた。光沢のある黒いイブニングドレスに、踊りやすい女物の靴。両手には白い手袋を着けている。「女の方が潜入しやすいから」と言っていただけあり、化粧まで完璧だ。


 貴族は人間だけの特権で、ウルカやヴァニラは貴族に成りすますことができない。そこで今回は、唯一人間のティオに貴族役を頼んだのだ。依頼人の指示が細かくない限り、ウルカは特に綿密な打ち合わせをおこなったりしないのだが、入り口での検査を上手くかいくぐった様子を見る限り、ティオはティオなりの作戦があるようだ。なにせ本日の主役は、紛れもない彼なのだから。

「お食事はいかがですか?」

 にこやかな笑みを浮かべながら、ウルカはドレス姿のティオに話し掛ける。こんな当たりの良さそうな笑顔は、いわゆる演技の賜物だ。

「ええ、ぜひ」

 口調まで女に寄せている彼に向かって、ウルカはプレートを差し出した。白い丸パンと、細長いソーセージ。中の小さな器には、マスタードなどが載せられている。

(スキルはすでに発動しておいた)

 皿を手渡しながら、ウルカは小さく口を動かした。標的の実力は不明だが、人間は高確率でスキルを所持している。彼がわざわざ侵入しているのは、自身のスキルを発動するためだ。「無効化」は、自身を含む一定範囲内のスキルを完全に封印することができる。代々伝わる血縁が織りなす、非常に特殊なスキルだ。

(後は任せてよ)

 ティオは表面では「ありがとうございます」と言いながら、可愛らしくウインクをしてみせる。それを見たウルカは、仰々しくお辞儀をしてその場を去った。

 本当は裏でこそこそ動けば良かったのだが、ティオがウエイター役でもやってみせろと言って聞かなかったのだ。彼の機嫌を損ねると面倒なので、そこら辺にいたウエイターをセロドール系の強い薬で眠らせて、着ぐるみ剥がしまでしたのだった。難を逃れたヴァニラのことを、実に羨ましいと思ってしまう。


 全ての皿を配り終えた後、ウルカはダンスホールから退出した。あれだけ演技しておけば、ティオも満足しただろう。爆発に巻き込まれない内に、さっさとホールから離れておかなければ。彼はそう思いながら、すっと髪の毛をほどいた。

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