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(……まぁ、何もこいつを憎んでいるわけではないがな)
右腕にくっ付いているライチを見て、ウルカは内心そう思った。彼は今、しきりにティオを問いただしている。
「エルフは北の方に沢山いる? そんな話、聞いたことないけどなー」
「ライチが知らないだけで、実はいるんだよ。ほら、エルフって協調性が高いでしょ? だから、吸血鬼の目をかい潜って暮らしてるんだよ。それに、吸血鬼ってあんまり北の方に行かないでしょ? 僕、北国出身だからさ。そっちの方面には詳しいんだ」
「……ふーん。じゃあ、今度連れて行ってくれよ」
「あー、機会があったらね」
ティオは「助けてー!」と言いたげな顔をしているが、元々ライチを同行させたのは彼なので、責任はしっかりと取ってもらう。
(千七百年も前のことを、いちいち根に持っていても仕方がない。……それは、分かっている)
吸血鬼の寿命は三百年ほどだ。だから、あのとき同じ森にいた吸血鬼たちはもういない。兄の行方は結局分からないままだが、生き延びている確率はかなり低いだろう。死んだ者に対して恨みを持ったところで、最早何の意味もない。
(だが……。吸血だけは、どうも駄目だな)
吸い付かれそうになる度、ウルカはあのときの虚しさを思い出す。父の悲しそうな顔と、自分の胸の痛み。
(……まぁ、単にこいつが鬱陶しいってこともあるが)
ウルカの視線を感じたライチが、こちらに向かってにこっと微笑む。悪意はないのかもしれないが、会う度に吸血を迫られるのは、非常に面倒くさい。
「てか、わざわざ北の方に行かなくても、ウルカが吸わせてくれたらそれで十分だぜ!」
「うるさい、黙れ」
「ひどっ!」
ライチのリアクションを無視して、ウルカは速度を速めた。もう少し歩けば、目的地に到着する。吸血鬼の続報がない以上、ダンジョンに潜って捜索する羽目になりそうだ。




