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(兄さんがいなくなったのは、吸血鬼のせいだ)
一年前、兄と一緒に歩いた道。夜も更けたこの場所に、今はウルカ一人だけだ。決まって遭遇するはずの吸血鬼も、最早どこにもいない。
(兄さんが消えたとき、吸血鬼もこの森から姿を消した。きっと、吸血鬼が兄さんのことをさらったんだ)
吸血鬼に対して優しかった兄。目を付けられるのは当然だ。少なくとも、ウルカはそう考えていた。
「くそっ……! 吸血鬼のやつ、どこ行ったんだよ!」
薄暗い森で、ウルカは思わずそう叫んだ。
「知りたいか?」
――突如、上空から降り注ぐ声。この翼のはばたき、ウルカは何度も耳にしたことがある。
「……っ! 吸血鬼!」
ウルカの目の前に降り立つ、吸血鬼の青年。彼の群青色の髪が、実に怪しげだった。
「兄さんを返せ!!」
ウルカはばっと彼に詰め寄り、その青い瞳を睨んだ。激しい憎悪が、ウルカの顔から溢れ出る。
「兄さん? ……ああ、あのフェアリーのことか」
そう言うと、吸血鬼は不気味な笑みを浮かべた。何が面白いのか、クスクスと笑っている。
「おまえっ……!」
吸血鬼の笑いが、ウルカの中の怒りを増長させる。彼は思わず右手で拳を作り、吸血鬼の顔面に殴り掛かった。




