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レオの森に入り、鬱蒼とした木々の間を抜ける。本来ならば静かなはずのこの場所も、ライチとティオが喋り倒すせいで、今日は始終うるさかった。
「おまえ、マジでファッションに詳しいよな。スタイリストでもやった方がいいんじゃないか?」
「スタイリストかぁー。憧れるなぁ」
「絶対儲かると思うぜ! 世界中を旅するスタイリストとかどうだ?」
「えー? 聞いたことないよ」
ウルカは右腕のライチを一瞥し、傍らの花に目を落とした。冬の寒さにも耐えるこの野花は、実に健気で美しい。
「ウルカもさ、植物に詳しいんだから、花屋にでもなったらどうだ?」
……突然飛んできた「花屋」という単語に、ウルカは思わず間の抜けた表情を浮かべた。この吸血鬼、随分と平和な職業への転職を勧めてくる。
「ウルカが花屋!? ぷっ!!」
ティオは必死に笑いを抑えている。にこやかな笑みで接客するウルカの姿でも思い浮かべているのだろうか。
「おれはいいと思うけどなー」
ライチはそう言いながら、じっとウルカの白い瞳を見つめている。冗談ではなく、本気だったらしい。
「……俺には無理だ」
その視線が痛くて、ウルカはさっと目を反らした。ライチは知らないのだ。彼がかつて滅んだフェアリー族であることを。だから、こうやって無邪気に提案してくるのだ。
「俺は、日の当たる場所には出られない」
「……? 何だよ、それ」
ライチは「意味不明」という顔をしながらも、ティオと再び話を始めた。今度は、「どの種族の血が美味しいか」という話題で盛り上がっている。
「やっぱり、一番はエルフだな! 飽きのこない味って言うか、とにかくうまいんだよ!」
「へー。じゃあ、人間はどうなの?」
「人間はなぁ……、結構当たり外れがあるんだよ。それに、下手に近づいたら殺されるしな。吸血して死んじまったら、全く意味ないし。だから総合的に見て、エルフが一番ってわけだ」
……ウルカはライチの視線をひしひしと感じ、思わず眉をひそめた。回り回って、吸血云々の話に戻ってきてしまった。
「だからさぁー、ウルカ、頼むよー。血、吸わせてくれよー」
ぎゅっと腕を掴まれ、ウルカは思わずティオ睨んだ。「話題を反らせ」と、目線で指示を送る。
「あー、そう言えば……。僕、エルフが沢山いる場所知ってるよ」
「え? それ、おれたちの知らない場所か?」
「うーん、多分?」
作り話を話すティオの表情は、正直苦しそうだ。しかし、それは仕方がない。彼はウルカが吸血を頑なに拒む理由を知っているのだから……。




