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翌日、外は穏やかな空気に包まれていた。気温は低いが、年越し当日ということもあり、大通りを歩く人々の雰囲気はどことなく軽やかだ。
「よーし!」
カフェの鍵をガチャリと閉めたユリネが、気合十分な声を上げた。防寒対策をしっかりとしたチャイとシフォンも、わくわくしたような表情を浮かべている。
「今日が売り歩き最後の日だね……!」
「うん! ユリネ、チャイ、頑張ろう!」
期間限定の売り歩きも、ついにラストスパートだ。ウルカが聞いた話によると、この双子とホムンクルスのクッキーは中々好評で、毎日想定以上の量を焼き上げているらしい。嬉しいながらに多忙な三人の日々も、今日で最後というわけだ。
「じゃーねー、ウルカ!」
「ああ」
一緒に外に出た代行業者三人組に手を振ったユリネたちは、笑い合いながらパタパタと駆けていった。甘いにおいと楽しそうな笑い声が、徐々に遠くなっていく。 「いいね、あの三人は。すっごく楽しそう」
その姿を眺めていたティオが、羨ましそうにこうつぶやいた。年越しぐらいは穏やかな気持ちで過ごしたいものだが、依頼とあらば仕方がない。
「さっさと依頼を終わらせるしかないな」
ウルカは寒がるヴァニラにマフラーを巻きながら、彼の言葉に返事をした。残り時間はおよそ十時間。その間に、依頼人の想い人を見つけ、拘束し、ルアの街まで連行しなければならない。
「で、ライチはどこにいるんだ?」
今回の依頼には、吸血鬼の持つ情報網が不可欠だ。そのためティオには、夜の内に彼と連絡を取ってもらったのだ。『年越しの日にはこの街にいると思うから、すぐに連絡できるよ』と言っていたが……。
「ああ、ライチなら――」




