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「私はその女が気に入りませんでした。別に、ただの女だったら良かったのです。ですがあいつは、困ったような顔をしながら、カレ公爵の愛を受け止めたのです。私という許嫁がいると知っていながら、彼をたぶらかした!」
ルカは頭を抑え、苦しそうにうめく。空気を読まないヴァニラの咀嚼音だけが、彼女の苦痛な声と重なった。
「私は許せませんでした。だから、ほんのちょっとだけ、嫌がらせをしたのです。貴族の世界ではよくある程度のおこないです。たったそれだけなのに、カレ公爵は私との婚約を破棄しました……。
悪いのは私ではありません。誰が何と言おうと、私の気持ちは揺るぎません。悪いのは私をコケにしたあの女狐と、まんまと騙されたカレ公爵です」
そこまで一気に言い切ると、彼女は黒い瞳を大きく見開いて、ウルカの真っ白い瞳を正面から見つめた。
「お願いです! ぽっと出の女狐・クーリアとカレ公爵を、死神の世界へと葬り去ってください!」
死神の世界。つまり、殺しの案件だ。ルカの嫉妬は並大抵ではない。
「払える金額は?」
これは、ウルカの常套句。依頼を受けるときには、相手が支払える額を聞く。殺しの場合は、最低でも金貨五枚は必要だ。
「二人を殺してくだされば、金貨二十枚支払います。欲を言えば、彼の屋敷を破壊するぐらい、派手にやって欲しいのです。殺した上で爆破でもしてくだされば、更に二十枚支払います」
彼女の言葉を聞いたウルカは、心の中で少し驚いた。暗殺を依頼する場合は、ひっそりと殺してくれというのが通常だ。爆破してくれというのは珍しい。
「随分と荒手な依頼だな」
黒い髪を揺らしてそうつぶやくと、ルカは寂しそうな笑みを浮かべた。
「……私は、初めてお会いしたときからずっと、カレ公爵のことが好きなのです。彼が死んで、支払いが終了したら、私も後を追って死ぬつもりです。あの女がいない世界で、私は彼と幸せになりたい……」
そう言うと、彼女はコートから金貨を五枚取り出した。依頼の前払い金だ。
「明日の夕方、カレ公爵の屋敷で舞踏会が開かれます。あの女も参加すると思うので、ぜひよろしくお願いします」
金貨を受け取ったウルカは、ちらりとルカの表情を見た。顔はこわばっているが、その意志は固そうだ。
「分かった」
短くそう答え、彼は即座に依頼を受けた。金さえ支払う気があれば、彼らは何だっておこなう。




