表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
6-冬景色と追憶
127/151

18

 雑踏に紛れて大聖堂を出たカミーリャは、オレンジ色の髪を揺らしながら細い小道へと折れた。明るい黄色の瞳で、ぐるっと周囲を見回す。

「アマンド。そこにいるんでしょ?」

 彼女が呼び掛けると、建物の隙間から異性のエルフが姿を現した。ベージュの髪にターコイズブルーの瞳を持ち、エルフの伝統衣装に身を包んだ彼は、誰が見てもその美しさを理解できるほど、整った顔立ちをしている。

「カミーリャ、俺たちの仲間は増やせそうか?」

 空を通る彼の声は、実に魅力的だ。一つひとつの言葉が、まるで実体を持ったかのように立ち現れてくる。

「仲間になるかは微妙だけど、仲間外れは見つけたわ。この世界からあぶれた存在をね」

 彼女は黄色の瞳を細め、そう語った。彼女の鋭い「観察眼」は、全ての物事を見通す。

「そうか……。やはり、この世界は狂っている」

 アマンドは悔しそうに顔を歪めた。彼の手首には、アーネラに拘束されたときの傷が残っている。半年前、カミーリャの所属している組織・ケーに助けられるまで、彼は人間たちによって激しい扱いを受けていた。

「俺は許せない。この世界でともに生きた種族を冷遇する人間など、死んで当然だ」

 二千年も遡れば、この世はエルフ社会だった。エルフが頂点に君臨し、他種族と「調和」しながら生きてきた。しかし、人間という一種族がのさばり始めてから、その全ては崩れ果てた。彼らは邪魔者を排除し、またお互いを憎み合った。

 アマンドは、人間の謀略の一部始終を見たわけではない。それでも、彼には分かった。かつてこの世で血を流した、エルフたちの怒りが。だから、自分がその憤怒を背負うのだ。

「そうね。それが私たち、『ケー』の存在意義だから」

 肌寒い風が、二人の間を通り抜ける。その温度は、エルフたちの恨みを孕んでいた。

「でも、今はまだ駄目。失敗は許されないから、慎重にやらないとね」

 反撃の狼煙は、高くたかく上がる。それゆえに、水面下での準備を念入りにおこなわなくてはならないのだ。

「アマンド。貴方にも話したと思うけど、まずはカウラナを狙うわよ。かつての姿を取り戻させるために」

「……カウラナの主導権を、エルフに戻すためにか」

「ええ、そうよ。そのために、私はギルドの受付嬢をしているんだから。最近エルフの冒険者も増えてきて、根回しは順調よ」

 そう言うと、カミーリャは踵を返した。オレンジ色の長い髪をなびかせながら、再び大通りへと向かう。

「あぶれ者のこと、リーダーに相談してみるわ。貴方は先に、アジトに戻っていて」

「ああ、分かった」

 それを合図に、エルフたちの密談は終了した。陰に隠れた裏舞台で、誇り高き種族は抵抗を始めようとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ