18
雑踏に紛れて大聖堂を出たカミーリャは、オレンジ色の髪を揺らしながら細い小道へと折れた。明るい黄色の瞳で、ぐるっと周囲を見回す。
「アマンド。そこにいるんでしょ?」
彼女が呼び掛けると、建物の隙間から異性のエルフが姿を現した。ベージュの髪にターコイズブルーの瞳を持ち、エルフの伝統衣装に身を包んだ彼は、誰が見てもその美しさを理解できるほど、整った顔立ちをしている。
「カミーリャ、俺たちの仲間は増やせそうか?」
空を通る彼の声は、実に魅力的だ。一つひとつの言葉が、まるで実体を持ったかのように立ち現れてくる。
「仲間になるかは微妙だけど、仲間外れは見つけたわ。この世界からあぶれた存在をね」
彼女は黄色の瞳を細め、そう語った。彼女の鋭い「観察眼」は、全ての物事を見通す。
「そうか……。やはり、この世界は狂っている」
アマンドは悔しそうに顔を歪めた。彼の手首には、アーネラに拘束されたときの傷が残っている。半年前、カミーリャの所属している組織・ケーに助けられるまで、彼は人間たちによって激しい扱いを受けていた。
「俺は許せない。この世界でともに生きた種族を冷遇する人間など、死んで当然だ」
二千年も遡れば、この世はエルフ社会だった。エルフが頂点に君臨し、他種族と「調和」しながら生きてきた。しかし、人間という一種族がのさばり始めてから、その全ては崩れ果てた。彼らは邪魔者を排除し、またお互いを憎み合った。
アマンドは、人間の謀略の一部始終を見たわけではない。それでも、彼には分かった。かつてこの世で血を流した、エルフたちの怒りが。だから、自分がその憤怒を背負うのだ。
「そうね。それが私たち、『ケー』の存在意義だから」
肌寒い風が、二人の間を通り抜ける。その温度は、エルフたちの恨みを孕んでいた。
「でも、今はまだ駄目。失敗は許されないから、慎重にやらないとね」
反撃の狼煙は、高くたかく上がる。それゆえに、水面下での準備を念入りにおこなわなくてはならないのだ。
「アマンド。貴方にも話したと思うけど、まずはカウラナを狙うわよ。かつての姿を取り戻させるために」
「……カウラナの主導権を、エルフに戻すためにか」
「ええ、そうよ。そのために、私はギルドの受付嬢をしているんだから。最近エルフの冒険者も増えてきて、根回しは順調よ」
そう言うと、カミーリャは踵を返した。オレンジ色の長い髪をなびかせながら、再び大通りへと向かう。
「あぶれ者のこと、リーダーに相談してみるわ。貴方は先に、アジトに戻っていて」
「ああ、分かった」
それを合図に、エルフたちの密談は終了した。陰に隠れた裏舞台で、誇り高き種族は抵抗を始めようとしている。




