表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
6-冬景色と追憶
123/151

14

 世界の北の北。太古の神話では、そこは「魔女の庭」と呼ばれていた。生き物がほとんど寄り付かないような、酷く寒い地域。今では不自由なく住める程度にまで開発が進んだが、千五百年前には考えられないことだった。

 その地で暮らしていた、今は亡きアラニ族。レミ族との民族争いに敗れた、数少ない人間集団の内の一つ。光属性魔法を使い、唯一無二の神を信仰し続けた、誇り高き伝道者。その彼らが、いつの間にか世界の北端に追いやられ、残された生を惨めに食いつくす存在となってしまった。

 

「ティオ!」

 背後から飛んできた、姉の怒号。長い銀髪を揺らし、赤い瞳を見開きながら、雪の中を必死の形相で追いかけてくる。

「お祈りの時間よ!! 神への信仰を示さないといけないんだから!!」

 祈り、神、信仰。ティオはその単語が大嫌いだった。絶滅の危機に瀕している彼らに、何の救いの手も差し伸べてくれない神など、祈って何の意味があるのだろうか。

「嫌だ!!」

 彼は叫びながら、いつものように白い大地を走り回った。姉との追いかけっこは、最早日課になってしまっていた。

「我が儘言わないの! 神への敬意は、アラニ族の掟なのよ!?」

「そんなの知らない!!」

 乱暴に降りしきる雪で、民族衣装の長い裾が濡れる。それでも彼は、傍観の態度を示す神のことが嫌いだった。

「ティオ!! 待ちなさい!!」

 姉の足は速い。結局のところ、少年だった彼は捕まり、何度も頬をぶたれてしまう。

「あんたは!! どうして言うことを聞かないの!?」

 褐色の肌が、みるみるうちに赤くなっていく。その痛みに、彼は決まって涙を流した。

「ううっ……! お姉ちゃん、痛いよ……!」

「うるさいっ!! あんたが悪いんだからね!!」

 姉は熱心な信徒だった。だからこそ、祈りもろくに捧げないような不真面目な彼を、彼女は決して許しはしなかった。

「も、もう止めて……!」

 雪の上で姉の下敷きになりながら、彼は何度も謝った。赤い瞳がぐしゃぐしゃになるまで、何度も許しを願った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ