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注文が来るまでの間、ウルカたちは他愛のない話を続けた。ホムンクルスたちは意気投合したのか、ナプキンに思い付くままに絵を描き始めている。
「本当にさー、あたし、ルラに生まれてなくて良かったわ」
パルフェはポニーテールの後ろに両手を回しながら、そうつぶやいた。彼女の毛先が、動作とともに少し揺れる。
「確かにな。おまえがルラ国民だったら、今頃アーネラ本部にでも監禁されているんじゃないか?」
錬金術に長けているパルフェは、その気になれば亜人を大量に生産できる。ルラ国内にいたら、アーネラの格好の餌だろう。
「怖っ! あたし、ずっと錬金術させられるわけ?」
「良かったな。死ぬまで暮らしに困らないぞ」
あくまで現金なウルカに、パルフェは小さく肩をすくめた。
「そりゃそうだろうけどさ、あたしは自分のホムンクルスが奴隷になるのはイヤだよ」
「だが、おまえがそう言っている間にも、貧しい亜人は奴隷として売買されている。自分のホムンクルスは駄目で、生身の亜人はいいのか?」
奴隷制度は、この世界に深く根付いてしまっている。人間が台頭し始めた時代から、この世を円滑に動かしているのだ。
「正論。けど、あたしにはどうにもできないよ。あんただって、本当は微塵も思ってないくせに。それとも、プレとでも手を組んでアーネラをぶっ潰すつもり?」
「万人救済」を掲げるプレは、東のメカ国を拠点としており、政治的な側面でも深く関わっている。プレとアーネラがぶつかりでもしたら、メカ国とルラ国の争いになってしまう。
「プレを焚き付けたら、それこそ戦争になるぞ。アーネラを潰せたとしても、責任が取れない」
「まぁ、戦争はごめんだね」
パルフェはそう言い捨てると、ホムンクルスたちの絵を覗き込んだ。可愛らしい絵が並ぶ中、上手い絵と下手な絵が混じっている。




