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年越しの飾りが付いた、煌びやかなレオの大聖堂。その長椅子の一端に、ティオはちょこんと腰掛けていた。
信仰団体プレは、この世で一番大きな宗教団体だ。「万人救済」をモットーに、亜人たちにも手厚い保護を与えるので、信徒の数が非常に多い。今日も大聖堂には、様々な種族の者が集まっている。
「本日は年越しの祈り・ラア ケアにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
説教台に立っているのは、ミカネレと呼ばれる位に就いている女性だ。平たく言うと司教に当たる人物で、幹部のような役割を担っている。
「私は、ミカネレ・第三位のアルテと申します。それでは皆様、神に向かって祈りをささげましょう」
彼女はサファイアのような美しい髪を揺らしながら、ゆっくりと指を組み始めた。まばゆいプレの紺衣装が、大聖堂のステンドグラスの色に染まっていく。
「私たちの下に、神の加護があらんことを」
それを合図に、一斉に目を閉じる信徒たち。ティオも慣れた様子で、それに従った。
(本当は、しても意味ないんだけどね……)
そう思いつつも、何故か目を伏せる彼。毎年恒例の、この罪悪感。全ては、千五百年前に死んだ姉のためだった。適当な祈りを捧げる彼の頬を、何度も容赦なく叩いてきた姉。この時期になると、決まってその痛みを思い出すのだ。
(……いつになったら、僕はこの過去から逃れられるんだろう)
次第に顔を上げ始めた信徒の様子を見ながら、ティオはぼうっと説教台を眺めた。祈ったところで、死んだ者の願いが果たされるわけではない。それなのに、彼は祈りの体裁を整えてしまうのだ。消えた自分の一族のために、未だかつて見たこともない、神に向かって。




