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寒さも一層極まり、世界中が年越しに向けて盛り上がり始めた。メレ国の大通りも例年通りに美しく装飾され、枯れた木々には可愛らしいモールが釣り下がっている。
この時期になると、どの店も限定メニューを揃えるようになる。年越しというと、万人にとっての一大行事だ。信仰団体に所属している者もそうだが、一般人であろうとも気分が躍る。つまり店側としては、その心を狙っているのだ。
「ねぇねぇ、こんなケーキとかどう!? 超デカ盛りケーキ!! うひゃひゃひゃひゃ!」
「えーっと、材料費考えてないでしょ……」
例に漏れず、双子の天使・チャイとユリネも、今年の限定メニューを考え始めていた。カフェに置かれたテーブルの上で、ああだこうだとアイデアをすり合わせながら、ピッタリのメニューを作り上げていく。
「あ、クッキーとか作ったらどうかな?」
今年から新たに加わったシフォンも、負けじと提案をする。今ではすっかり雰囲気に馴染み、双子とともにカフェの運営に携わっている。
「クッキーだったら沢山作れるし、大通りで歩き売りもできるかも」
「歩き売り!? 楽しそー!!」
「わ、私もやりたい……!」
中々の良案に、双子の黄色の瞳も輝く。今まで店で売ることしか考えていなかったが、あえて街に繰り出すという手もありかもしれない。
「何なら、クッキー以外にも色々作ろー!」
ユリネはシフォンのアイデアにすっかり乗り気で、その場で小躍りしている。
「チョコレートとか……?」
「しょっぱいものもあるといいかもね」
チャイの頭の中にも、三人でお菓子を作る姿が思い浮かんでいる。今年はいつも以上に、楽しい年越しになりそうだ。
「三人とも、盛り上がってるね」
地下の隠し階段から上がってきたティオが、ユリネたちが盛り上がっているのを見て、にこにこと微笑んだ。白いパーカーという流行の服を身に纏った彼は、これからどこかに出掛ける様子だ。
「ティオ、どこかに行くの?」
シフォンの灰色の瞳が、言葉とともにパチパチと動く。
「毎年恒例の、お祈りにね。別に入信してるわけじゃないんだけど、やっておかないと気持ち悪くてさ」
「ティオはね、年越しの時期になると、必ず教会に行くの……」
チャイが小声で補足する。この街を拠点とし始めた頃から、ティオはメレの郊外にある大聖堂に足を運んでいるのだ。年に一回だけだが、信仰団体プレの信徒と同じように、神に向かって祈りをささげる。
「あ、そうだ。シフォン、ウルカが呼んでたよ。キニ国に行くから、付いてこいって」
「え? キニに……?」
シフォンは小さく首をかしげた。キニ国に行く用とは、一体何であろうか。




