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「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
ジークを誘拐してから三日後。地下のアジトで、ウルカはオスカーにずいと顔を近付けられていた。
「あれだけ『帰ってこい』と催促しても、全く聞く耳を持たなかったジークが、今じゃ『ロール家のために尽くします』などと言っている。一体、これはどういうことだ?」
「そうか。うまい具合に錯乱が起きたみたいだな」
ウルカはしっかりと金貨を受け取り、静かに笑みを漏らした。思わぬ結果に大喜びしたオスカーが、奮発してより多くの金貨を渡してくれたのだ。
「錯乱? そういう魔法があるのか?」
「まぁ、そうだな。そういうことだ」
ラアウはフェアリー族特有の魔法なので、説明するのが難しい。ウルカは適当に彼の疑問を受け流し、金貨を机の上に置いた。
「おじさん、オルアン家には何て言ったの?」
ハンバーガーを齧っていたティオが、彼らの会話に口を挟んだ。彼はこの料理が好きらしく、七日間に二、三回は食べている。
「当初の予定のまま、オルアン家に配属させてもらうことにした。何せ、ジークは自分が追放されたこと自体も覚えていないからな」
「へぇー! それはラッキーだね!」
「ああ。本当にありがたいことだ」
オスカーに見つめられたウルカは「たまたまだ」と言って小さく首をすくめた。毒のお陰とは言え、生物の記憶とは実に曖昧なものだ。
「ねぇ、おじさん。今度、ここにもジークの料理を持ってきてよ。僕たち、結局彼の料理を食べれず仕舞いでさー」
「分かった。定期的に持ってこよう」
「わーい! やったー!」
呑気な会話を繰り広げる二人。その様子に、ウルカは思わず呆れた表情を浮かべる。
「おい、ティオ。こんな裏路地を準男爵がウロウロしていたら、否応なく目立つだろうが」
「えー?」
「『えー?』じゃない」
不満そうな顔をするティオを、彼はしっかりとたしなめた。千年以上も同じことをしているからか、彼にはどうにも緊張感が足りない。




