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「……そうだ。わたし、新しいパーティを探しに行かなきゃ」
……むくりと起き上がったノーシスが、突然そんなことを言い出した。まるで数年分の記憶が抜け落ちてしまったようなセリフだ。
「役立たずだって追放されて、ダンジョンで置き去りにされたんだった。でも、スキルが覚醒したから、もう問題ないよね。早く、新しい仲間を見つけなきゃ」
うわ言を垂れ流しながら、フラフラと出口に向かうノーシス。彼女を見た他の人間も、次第に店を後にし始めた。
「私も、自分の街に帰らないと。お母さんが待ってるわ」
「そうだ、そうだった。ダンジョン攻略がまだ途中だった」
「記憶が曖昧だけど、とにかく早く行かないと。こんなところで、ボサッとしているわけにはいかないわ」
次々と遠ざかる足音。いつの間にか、店内にはチャーナとイリアだけが取り残された。
「これって……」
――チャーナの頭の中に、ジークを連れ去ったエルフの言葉が蘇ってくる。『激しい錯乱と、記憶障害』とは、このことか。
「チャーナ、私たち、一体どうしちゃったの? 私、記憶がぐちゃぐちゃなんだけど、チャーナは覚えてる?」
イリアのピンク色の瞳が、チャーナを見つめている。チャーナは一瞬、ドキッとした。これは、真実を知りたがっている瞳だ。
……しかし、チャーナの心はそれほど澄んでいなかった。洗いざらい話してしまったら、イリアは真実を思い出してしまうかもしれない。再び、ジークのことを求め始めるかもしれない。それが、どうしても怖かった。
「……私たち、このレストランで食事をしていたの。だけど、突然モンスターが侵入してきて……」
「……ああ、なるほどね。どうりで、戦った形跡があると思ったわ」
イリアはそう言って、苦笑いを浮かべた。後ろめたさのある、チャーナの言葉。素直な彼女は、それを信じてしまったのだ。
「モンスターと戦ってノビちゃうなんて、私もまだまだね」
彼女は服の裾を叩きながら、ぱっと立ち上がった。「あれ? 何、このエプロン」とは言っていたが、すぐに「ま、いっか」と軽く流してしまう。
「誰もいなくなっちゃったみたいだし、私たちも行きましょ。近くのダンジョンで修行するわよ!」
「あ、うん!」
チャーナはイリアの言葉に頷いて、彼女の横を歩き始めた。まるで昔に戻ったかのように、自分の傍にいてくれるイリア。罪悪感を覚えつつも、チャーナはこの事実が嬉しく感じた。
(こんなことになるなんて……。あの二人組には、感謝しないとかもね)
頭の中で感謝を述べるチャーナ。代行業者によって、隠された小さな復讐が果たされた瞬間だった。




