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しんと静まり返った、ジークのレストラン。その店内で、亜人少女のチャーナは呆然としていた。謎の魔法を使う二人組に、店主のジークが連れ去られた。イリアは突然様子がおかしくなり、自分は何もできずにいる。彼女はただただ力が抜けたように、その場で座り込んでいた。
元々、チャーナはイリアにべったりだった。モンスターに襲われているところを彼女に助けてもらったときから、ずっと彼女と行動をともにしてきた。このレストランで働き始めたのも、イリアが「そうしたい」と言い出したからだ。
別に、チャーナはジークのことが好きではなかった。しかし、イリアは彼に好意を寄せていて、口を開けば「ジーク、ジーク」と言い始めるようになってしまった。だから、チャーナ自身はジークのことを妬んでいた。自分のお気に入りを、力尽くで横取りされたような気分だった。
ジークのことはどうでも良い。倒れ込んでいる他の仲間も、最早関係ない。ただ、目の前で倒れているイリアのことだけが心配だ。
「イリア……」
視線の先のイリア。瞳孔が開き、口を開けたまま倒れ込んでいる。彼女は死んでしまったのだろうか。何故、自分は何もできないのだろうか。守られてばかりで、何故守ってあげられないのか。チャーナは無力な自分に呆れ、思わず涙を流した。
「ん……」
――チャーナははっとした。イリアの左手が微かに動き、彼女の口から声が漏れたのだ。
「イリア!!」
そう思った瞬間、チャーナは金縛りが解けたように動き出した。ばっとイリアに駆け寄り、肩を大きく揺する。
「イリア! イリア!」
その後ろでも、ゴソゴソと起き上がる音がした。どうやら、全員意識を取り戻したらしい。
「……あれ、チャーナ?」
イリアは小さく首をかしげ、「うっ」と頭を抑え込んだ。まだ、様態が優れないようだ。
「イリアッ……! 無事で良かった……!」
「……無事? 私、モンスターにでも襲われたの?」
彼女はきょろきょろと辺りを見回し、曖昧な言葉を口にした。他の仲間も店内を眺め、しきりに首を傾けている。
「……? どこ、ここ?」
「おれ……、確かダンジョンにいたはずなんだけど……」
「……ていうか、あなたたち、一体誰??」
三人の人間は互いに疑問を発し、同時に頭を抱え始める。まるでここ数年間の記憶がぐちゃぐちゃになってしまったかのようで、実に気持ちが悪い。




