表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界「ざまぁ」代行業者  作者: 田中なも
5-追放、覚醒、そして誘拐
104/151

20

 ……しばらくすると、美しい歌声は尻すぼみなっていった。この小瓶に閉じ込められていた歌は、これで終わりのようだ。

「終わったぞ」

 ウルカが外に呼び掛けると、トタトタと足音が流れ込んできた。誰もいないはずなのに、確かに聞こえる足音。一人残された亜人の少女は、思わず「ひっ!」と声を上げた。彼女の黄色のボブヘアが、小刻みに揺れる。

「へー。『セイレーンの歌声』を聴くと、人間はこうなっちゃうんだー」

 空気とともに流れてくる、ティオの声。姿は見えないが、たった今、ウルカの下へと戻ってきた。

「ああ。魂が抜けた人形のようだ」

 ウルカは腹部を抑えながら、よろよろと立ち上がった。身に着けていたフードを裂き、無理やり止血作業に入る。

「大丈夫?」

「この程度なら、慣れている」

 イリアと戦っていた最中、相手に殺気が見られなかったため、わざと大げさに倒れておいたのだ。それが功を奏し、ウルカの傷は重症にならずに済んだ。

「でも、ちょっともったいなかったんじゃない? 『セイレーンの歌声』を使っちゃうなんてさ」

「気にする必要はない。またいずれ、手に入るだろう」

 ウルカはぐるりと周囲を見回し、そこにいるであろうティオに向かってそう答えた。慣れたこととは言え、見えない相手に対して話し掛けるのは、かなり気味が悪い。

「それで? これからどうするの?」

「まずは姿を現せ。おまえがどこにいるのか分からん」

「あ、ごめんごめん」

 次の瞬間、ティオは光属性魔法・ロカヒを解除し、店内に姿を現した。亜人の少女の怯えた金色の瞳を見て、「驚かせちゃった? ごめんね」と言って笑っている。

「う、うわああああ!!」

 亜人少女は突然悲鳴を上げ、無我夢中に魔法を乱射し始めた。動かなくなった仲間に、揃った敵二人組。まるで絶望的だ。

「アホヌイ」

 ティオは左手を前方に突き出し、藍色の魔法陣を召喚した。たった一度のその詠唱だけで、彼は少女の攻撃を全て防御し切ってしまう。

「あ、ああ……」

 宙を漂うような声を出し、倒れ込んでしまう少女。その姿は、実に大きな哀れみを含んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ