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「やれ!」
突然、目の前で突っ伏していたウルカが、誰ともなしに大声を上げた。イリアとジークの視線が、途端に彼に集まる。
「っ!?」
イリアは咄嗟に剣を構えた。もしかすると、もう一人の敵が奇襲を仕掛けるつもりなのかもしれない――。
――しかし次に起きたのは、全くの想像外のことだった。少し奥にある、ガラス張りの大きな窓。テラス席の出入り口となっているそこは、非常に丁寧に清掃されていて、裏側には誰もいないことが容易に確認できる。
……が、何故かそこの隙間から、繊細な小瓶が投げ込まれたのだ。まるで空中浮遊しているかのような軌道を描いた、装飾の美しい小瓶。ジークたちの目線が移動し切るまでの間に、それは磨かれた店内の床に触れて、空を裂くような音を立てて割れた。
「毒か!?」
ジークはさっと服の袖で鼻を覆った。しかし、割れた小瓶から流れてきたのは、何とも優雅な美声だった。
「何……? この歌……」
イリアはすっと耳を澄ます。いや、澄まさずにはいられなかった。それはこの世の者とは思えないほどの、実に幻想的な歌声だったからだ。
「……」
ジークと彼の仲間たちは、一心不乱にその音色に聴き入った。謎の生物が奏でる神秘的な舞台に、人間は一人残らず魅了されてしまう。ただ一人、猫のような耳を生やした亜人の少女だけが、「わけが分からない」と言いたそうな顔でその場に立ちすくんでいた。




