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――ドサッ。ジークの後ろで、何かが落ちるような音がした。ばっと振り返ってみると、先ほどまで元気だったノーシスが、床でうつ伏せになって倒れている。彼女の瞳孔は大きく開き、意識が完全に飛んでしまっていた。
「モエの花を利用した、睡眠薬か。独特なにおいがすることで有名だが、さすがは天才料理人、上手く具材の香りと混ぜ合わせたな」
右手を銃の形に構えたウルカ。その真っ白い瞳で、ジークの顔をじっと見つめている。
「だが、俺の鼻は誤魔化せない。俺は長い間、植物と関わってきたからな。少なくとも、おまえよりは」
「……!?」
ジークは焦りを浮かべ、じりじりと後退する。仕留めたと思ったはずの獲物が、上手く引っかからなかったのだ。
「ジーク・ロール。おまえを連行する」
ウルカは焦点を絞り、「ラアウ」と魔法を唱えた。細い針がホールの空気を裂き、ジークの首元目掛けて飛来する――。
「ジーク!!」
――その直後、螺旋階段から飛び降りてきたイリアが、自慢の剣でウルカの攻撃を防いだ。細い毒針を瞬時に把握し、確実な一閃で相殺する。
「イリア!!」
ジークは美しい構えを取るイリアと、その後から階段を駆け下りてきた仲間たちの姿を見て、ほっとしたような顔をした。人間の少女が二人に、少年が一人、頭部に耳を生やした亜人の少女が一人。皆このレストランを、そしてジークを愛してくれた仲間だ。
「ジークは下がって! 私たちが相手をするわ!」
そう言うや否や、イリアは即座にウルカに切り掛かった。魔法を使わず、剣術のみで勝負するつもりらしい。当然ながら、彼女にはそれ相応の実力がある。
「ウハネ!」
ミディアムヘアの少女が、イリアに対して増強魔法を掛けた。無属性の補助魔法だ。
――ウルカは咄嗟に彼女の斬撃を避けたが、その直後、今度は少年の剣が向かってくる。この動き、そしてこのコンビネーション、確実に戦闘慣れした冒険者たちだ。
テーブルの上を次々に飛び走り、ウルカは何とか攻撃を回避し続ける。一度でも立ち止まったら、行動不能なまでの致命傷を負ってしまう。
「みんな!! 逃げられないように、一斉に攻め込むわよ!!」
イリアの指示に頷いた他の四人は、それぞれに魔法を唱え始めた。大小様々な魔法陣が生み出され、ウルカに向かって鋭く襲い掛かる。
攻撃をかわそうと、ウルカは上方に飛び上がったが……、これは完全に読まれていた。
「これで終わりよ!!」
その声とともに、イリアの斬撃が彼の腹部を裂く。磨かれた刃が生み出す、鮮明な一撃。
「――っ!」
流れる鮮血と、走る激痛。彼は思わずよろけ、その場で膝をついた。その直後、彼の体はイリアに抑え込まれてしまう。
「観念しなさい」
彼女は刃でウルカの顔を撫で、戦闘の終了を宣言した。魔法を使わずに、この戦闘能力。まさに、カウラナから認められた冒険者だった。




