書籍化記念 魔我羅の立て直し8
「……よく俺だと分かったな」
「お身体が大きいですし……それにこの鎖骨のホクロをよく覚えています」
するりと懐に入られ、昔を懐かしむ様に鎖骨を撫でられると変な気分になってしまう。お身体が大きくなる前に体を離そう。
尚、この世界だと栄養状態が悪いせいか身長の平均160cmくらいなので172cmの俺はかなり大柄な部類だ。
「ティリは湯女か?」
「はい。これでも1番人気なんですよ」
半裸だったのでもしやと思えばやはりそうか。元貴族の世話焼き奴隷なら、品も知識も技もある。この薄暗いワンダーランドならビジュアルはそれほど重視されない。なるほど納得だ。
しかし、チェンジで。
「では連れを探しているので、またな」
「いえ暗いですし、ご一緒させていただきます」
「ほぁっ!?」
踵を返すも、背後からケツをがっちり捕獲されてしまった。
「恐らく、手前の湯屋にお連れ様はいらっしゃると思いますよ。マガラ様はここは初めてですよね?」
「……そうだ。分かるか?」
「そんな恐る恐る歩いていたら分かります。最初は湯屋で垢を浮かせてから、こちらの洗い場に向かうのですよ?」
クスクスと笑われてしまった。どうやらこちらからは見えていないが、あちらからは丸見えのようだ。暗さに目が慣れるのが遅いのは文明人だったからだ多分。
ベイルの野郎、俺を放置しやがったな。
ケツを掴まれたまま急かされ、連れ立ったまま湯屋へ向かう。
そこは全裸パーリナィだった。
湯けむり漂う暗がりの中、うごめきひしめき合う全裸達。男も女も関係ない。
わっしょいわっしょい。
そんなフレーズが脳内でリフレインしていた。
とりあえず全裸の波をかき分け、ベイルを探してみるも徒労に終わる。
そしてガタイの良い俺のケツは肉食女子達の争奪戦となっていた。具体的にはすれ違う女すれ違う女に揉まれまくっていた。
ティリが途中からディフェンスに回り両手でガードしてくれなければ何かが危なかっただろう。正面から堂々と不正アクセスしようとした輩までいたのだ。こちらは男女の区別が付いてないのに恐ろしい事この上なかった。
「助かったティリ」
「いえ、大丈夫でしたか? 大人気でしたね」
洗い場にて木のヘラの様なもので優しく垢を落としてもらう。
「懲りずにまたいらして下さいね」
昔より愛想の良くなったティリに癒され、また来てしまいそうな予感がした。
「シュウの旦那! そろそろ帰りやしょう」
「おま、ベイル。どこ行ってたんだ?」
「自分、指名の嬢がいるんで!」
「先に言えよ……」
「ウッスウッス。中に入れば単独行動、常識っス」
次は常識人と来ようと心に誓った。




