書籍化記念 魔我羅の立て直し2
肥料か……。真っ先に肥溜めが思い浮かぶが、あれもただ溜めればいいってものでもないだろう。好気性菌と嫌気性菌とかの絡みがあって、肥溜め一つにもノウハウが必要なはずだ。多分。
ここは、森人のオーバーテクノロジーに期待するか……。
「レイン!」
一拍おいて背後に気配が膨らむ。
「……はっ。おそばに」
『肥料や堆肥という言葉は分かるか?』
現地語では知らない単語なので日本語で聞いてみる。
『肥料であれば存じております。植物の栄養でござるな』
『そうだ。森人の里では糞尿を肥料に活用していたりしないか?』
『ううむ。詳しくは農業の技術者を招聘するでござる』
『下水処理の技術者もいれば頼む』
『ははっ』
『ちなみに、こちらの言葉で肥料はなんと言うんだ?』
レインとガロスで話し合いが始まった。こういった専門用語は日本語と現地語で中々すり合わせが面倒だ。
「『肥料』は肥料だそうです。こちらでは『焼き畑』か豊かな土を他から持ってくるらしいでござる」
「肥料か。色々、助かったレイン」
「はっ。ありがたきお言葉にござる」
肥料を使えば、土地生産性が大きく変わるかもしれない。まぁ、肥料も土壌に合わせて撒かないと逆効果とも聞いたことがある。専門の農業技術者にお任せしよう。
音もなく去っていくレインを眺めながら、糞尿処理と農業振興が何となく片付いた気がした。次に行こう。
「ガロス。この街の主な産業は何なんだ?」
「農作物の輸出と言いてえとこだが⋯⋯奴隷の輸出だわな」
「……人身売買か」
「それも今じゃあ無理だわな」
「だろうな」
旧ダンダムの人口は戸籍も何も消失してしまっているが、概算でも4分の3。恐らく3千人強まで落ち込み、空き家も目立つあり様だった。おまけに野盗集団によるセルフ鎖国で商人もやってこない。
「⋯⋯森人に頼り過ぎだが、食文化を見せて隣の国の貴族を呼び込むか。そのうち商人もくっついてくるだろう」
「森人の酒か! ありゃあ、いいモンだな! じゃ奥方様を呼んでくるぜ」
そう言いながらガロスはさっさと出て行ってしまった。何となくガロスはエメリーヌに苦手意識があるようだ。タメグチで会話していると睨まれるからかな?
執務机に座りながらボンヤリと未だ降り続ける雨模様を眺めていると、ノックの音が響く。
「あなた様。お呼びとあり、参上いたしました」
仕事モードのエメリーヌが楚々とした様子でやってきた。夜モードとのギャップが激しい。妊婦さんだし立場上どうかと思いつつも外交関連は、なし崩し的にエメリーヌ担当となってしまっていた。
「魔我羅の新しい産業として観光を考えている。帝国の貴族を呼んで魔我羅の安全性や食を広め、観光客や商人がやってくるようにしたい。それで親父殿を呼べないだろうか?」
「良きお考えにございます。早速、父上とマクシミリアン宛に文を出しとうございます」
そういえばマックスは元気にやってんのかね?
「頼んだ」
「任されました。ゴブリン空輸便で頼んでよろしいでしょうか?」
ブリンガーはいつの間にかできていたゴブリンさん最大手の運送屋だ。ダリとその旦那達がトップに立ち、元斥候部隊で組織されている。第三セクターか? 空輸便はエクスプレスとして、送った物が次の日に届くと親しまれている。
「良きに計らってくれ」
「はい」
微笑むエメリーヌは、なんやかんやで連絡が途絶えていた親や子供の事を心配してたのだろう。気が利かなくて申し訳ない気分だ。もう少し、労ってあげなければ⋯⋯。




