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56. 神の石


⋯⋯商機ッ!


「ダリ!帝国兵がやってくる。夜中に感知が使える者達でダンダムに食料を売ってきてくれ」


「承知だす。今いる商人達にも根回しするだす!」



完全なるインサイダー取引だが、取れる所から取れるだけ取っておく。それが俺の覇道、インサイダー魔王だ。


秘密裏に開設させた迂回ルートを出発していくゴブリン達。前哨戦は2日間に渡って大きな戦果を挙げる。特に塩が高値で売れた。



数日後、周辺に忍ばせている忍者部隊森羅から報告が入る。


「殿、帝国兵二百、ダンダム兵百。ダンダムを出立し行軍中。2時間ほどで魔術交戦距離まで接近するでござる」


魔術交戦距離は火球を中丹田のみで起動した時の最大有効射程である1kmくらいだ。勝手に策定した。


帝国の兵種は馬車1台と重装歩兵のみ、ダンダムはバラバラの山賊風のみの様だ。恐らく陣立てなどせず、魔術頼りの砲撃戦がメインだろう。予想通りか。



「第一種戦闘配備」


「ははっ。皆の者!第一種、戦闘配備にござる!」


「「応っ!」」

野太い雄叫びが上がる。初めての戦争となるが士気は高そうだ。


第一種戦闘配備の布陣テーマは集結。ちなみに第二種は散開、第三種は撤退戦だ。



マガラ軍は南端の柵の手前に全軍が整列し、俺を含めた主要メンバーは櫓に上がる。総力戦だ。


彼方に浮かび上がる人の群れ。


帝国兵が先行し、ダンダム兵が後ろに付いている。現地貴族軍を先行させないとは余程自信がある様だ。


「シューイチ⋯⋯」


「大丈夫だ」


ひりつく様な緊張感にサーラちゃんもやや不安顔だ。頭をポンポンしておく。


子供を戦場に出すのもどうかとも考えたがサーラちゃんの本領は魔術戦にこそ発揮される。結局全員参加となった。


「あなた様⋯⋯」


逆サイドのエメリーヌは若干あざとい。だがそれも良い。ポンポンしておく。



「敵、魔術交戦距離に入ります!」


櫓の下から報告が届いた。


目視でも確認出来る様になってきた。帝国兵が止まり盾を構え密集し、ダンダム兵が横並びになる。



やがて膨らむ光を感知する。


「サーラ。魔素殻展開!」


「うん!」


もりもりと広がるサーラちゃんの魔素殻がマガラ軍全体を覆う。開いているのは後ろの狭い範囲だけだ。


放物線を描いて到達した火球や風撃が魔素殻に炸裂する。


中に居ると殆ど無音だが地面が揺れ、魔素殻の覆われていない場所の柵が消し飛ぶのが見えた。



⋯⋯奴等、問答無用か。よろしい。


「皆、聞け!帝国は亜人種を魔族と呼び、皆殺しにせよと命じた!

我々マガラはそんな命には従わない!

皆を魔族と蔑称(べっしょう)するのなら、俺は喜んで魔王を僭称(せんしょう)しよう。

抗え!我が民たちよ。思い上がった帝国どもに我らの力を見せつけてやるのだ!ブリスロック出撃!」


「はっ!ブリスロック隊!飛翔!」


ロイ率いる新生ブリスロック隊24名が魔素殻の開いている後方に向かって飛び出した。ぐるりと方向転換を行い、帝国兵に向かって高速低空飛行に入る。まるでツバメ⋯⋯惚れ惚れする機動だ。


櫓の下でもエース達の出撃に歓声が上がる。


ぐんぐんと速度を増していくブリスロック隊は地を滑る様な横列飛行から一転、急上昇と同時に大地が爆ぜた。


こちらからは土煙で敵陣の様子は見えないが、神の杖ならぬ神の石の名を冠するブリスロック隊はここからが本番だ。上空で等間隔に散開、高等飛行技術のホバリングから揃って第2射を放つ。どこに落ちるかを確認する為の射弾観測を兼ねている。



あー見えないから分からないけどトドメの第3射はもう要らないんじゃないかな⋯⋯?


散開していたブリスロック隊は複数のグループに集結し、訓練通りの第3射で大地を揺るがした。



帝国史上いやこの世界の人類史上、類を見ない損耗率を叩き出したダンダム戦役が、魔王の名と共に歴史に刻まれたのだった。




「神の杖」

神の杖または神からの杖(かみからのつえ、英:Rods from God)は、アメリカ空軍が開発中だとされている宇宙兵器(軍事衛星)。Kinetic bombardment(運動エネルギー爆撃)とも呼ばれる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AE%E6%9D%96

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