2. 現実はいつも
⋯⋯10日前までの俺は無気力に生きてた。
真柄修一 38歳 バツイチ
親父の作った地方都市の印刷会社の二代目として取締役をやっており、それなりに稼ぎもあった。
新規事業担当役員なんてのも親父の取り巻きが中心となって会社を回してるのもあって、それ以外の当たり障りのないポストを割当されたものだ。
本業の印刷事業なんて物流が発達してる昨今、ネットで検索すりゃウチより安くて良いとこが沢山見つかる様な斜陽産業だから新規事業は重要ではある。
重要だけど「ウチの強みを活かして」と言われた所で突出した強みなんぞないし、そんな経験も人材もコストもない。
地方都市でやってたからグローバルでやってく意識もない。提案したら親父の取り巻きにフルボッコにされた。
⋯⋯そもそも、ウチの強みは地方で長いことやってきた親父の伝手しかないのだから活かし様もない。
とはいえ現状維持もいつまで保つか分からないので、アレコレとネット関連で手を出してみるも鳴かず飛ばず。
私生活はと言うと、元妻には慰謝料取れなさそうな男と浮気され、浮気を追及したら「セックスが下手」だの「早漏」だのと罵られるという二重の責め苦でチンチンも無気力になる始末。
色々やってもやらなくても上手くいかない。
真綿で首を絞められる様な閉塞感。歳を取れば取るほど詰む未来が予見できる。
性欲も無くなると外出も余計億劫になり、休みなんて寝たきり状態でスマホでネット小説読んで終わる。
⋯⋯現実逃避の日々。
「異世界転生してーなー」
そんな風に思ってた時期もありました。
でもね。何かうるせーなーって起きたら知らない街の中でいきなり兵隊さんみたいのに拘束されてて言葉通じないって無しだと思うの。
あれよあれよと身包み剥がされて牢獄スタート。
殴る蹴るの上、手の甲に焼きごてジュー。
荷車みたいな馬車にギュウギュウと押し込まれ、半日くらいの原野にドナドナされてきました。
トイレは牢屋から壺。臭いのにも慣れた。自分自身臭いモノの仲間入りしてる。
日本育ちには抜身の刃物がすぐ出てくるの超怖えわ。銃刀法偉大だわ。
あ、牢屋で「ステータスオープン!」てやってみたけど、うるさいって怒られたわ多分。