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7. 王宮の庭園で

 ガレオン王国に来てから三週間ほどが経った。

 心を乱すもののない穏やかな環境で過ごすうちに、私は元の調子を取り戻しつつあった。


 そんなある日のこと、エミリアお姉様が王宮に用事があるという。

 なんでも、懇意にしている王妃殿下が、実子である王太子殿下が病からなかなか回復しないことで、すっかり気落ちされてしまったので、そのお見舞いに行くのだそうだ。どこの王家も大変だ。


 異国の王宮に興味を惹かれた私は、自分も連れて行ってもらえないかとエミリアお姉様にお願いしてみた。

 王宮内に、国民に開放されている美しい庭園があると聞いたばかりだったので、そこに行ってみたかったのだ。


「ええ、では王宮まで一緒に行きましょう。本当に美しい庭園だから、きっとマリアンナも楽しめるわ」


「お姉様、ありがとう! 楽しみだわ!」


 イルヌス王国の王宮の庭園は何度も行ったことがあるけれど、ガレオン王国の王宮庭園はどんな感じなのだろう。

 初めての場所を訪れる時のワクワクする気持ちを楽しみながら、私はエミリアお姉様と一緒に王宮へと向かった。


 王宮は公爵家からほど近く、少し小高い場所にあった。

 立派な門をくぐり、馬車から降りると、目の前には美しく壮麗な宮殿がそびえ立っていた。イルヌス王国の王宮に勝るとも劣らない素晴らしさだ。これは庭園もさぞや期待できるに違いない。


 そしてついに王宮庭園に着いた私は、思わず感嘆の声を漏らした。


「なんて素敵な庭園なの……」


 庭園には、様々な種類の色鮮やかな薔薇が咲き誇っていた。手入れも行き届いており、どの薔薇もツヤツヤと輝いて見えた。

 こんなに美しい庭園を国民に開放しているなんて、ガレオン王国の王族の方は、とても国民想いの心が広い方々なのだろう。猫好きに悪い人はいないし。

 少し前に、自国の犬派王太子にガッカリした私は、すっかり隣国贔屓になりつつあった。


 私が色々と思いを馳せていると、エミリアお姉様が言った。


「では、私はお見舞いに行ってくるから、ここで待っていて頂戴。柵の外側は立ち入り禁止だから行ってはだめよ」


「はい、分かりました」


 私はエミリアお姉様を見送ると、にやりと微笑んだ。

 分かりましたとは言ったが、行かないとは言っていない。こんな素敵な庭園、柵の向こう側まで行ってみたいに決まっている。

 幸い、私は猫に変身することができるのだ。さっきから見ていれば、普通の猫ちゃんたちが堂々と柵の向こう側まで歩いていっている。

 つまり、私も猫に変身してしまえば、誰にも止められることなく、柵を越えられるのだ。


 私は周りの人たちの死角になる場所に移動して、一瞬で愛くるしい子猫に変身した。

 そして優雅な足取りで柵へと近づき……無事に向こう側へと行くことに成功した。

 調子に乗って、兵士に向かって「にゃーん」と可愛らしく鳴いてみたが、やはり気づかれることはなかった。猫の鳴き声を研究した甲斐があったわね、と一人満足げに頷きながら、庭園の奥深くへと進んでいく。


 トコトコ歩いて行くと、また別の庭園が現れてきた。こちらは薔薇園とは違って、自然の趣きを大事にした作りの庭園で、水仙など素朴な雰囲気の花々が咲いていた。

 周りには、人も猫も、誰もいない。私ははしゃいで庭を駆け回った。


 奥の方まで行くと、大きくて立派な木が立っていた。

 あの木に登って町を見下ろしたら、どんなに素敵だろう!


 私はウキウキした気持ちで、大きな木の幹を駆け上った。

 すると……一番下の木の枝で、ずんぐりむっくりした子猫が、おろおろと困った様子でいるのに出くわした。

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