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6. 隣国ガレオン王国への移住

 それから、ルドルフ殿下と私の婚約破棄の話は、貴族の間で瞬く間に広がった。

 誰が言いふらしたのかは知らないが、あちらこちらから様々な噂が聞こえてくる。


「尻尾が二股に分かれているんだろう」

「行燈の油を舐めるらしい」

「大きく口が裂けて、鋭い牙を立てて威嚇するとか」

「俺は頭に猫耳がついて、語尾にニャが付くと聞いたけど」

「なんだそれ」


 話にどんどん尾ビレ、背ビレ、胸ビレがついて、面白おかしく好き勝手に噂される。

 王家も公爵家も、おかしな噂が広がらないように釘を刺したが、人の口に戸は立てられない。

 私は人前に出るのが怖くなって、屋敷から一歩も出ないようになった。


 猫に変身する令嬢なんて、やっぱり忌むべきものなのかもしれない。

 王太子に婚約破棄された私なんて、もう何の価値もないんだ。


 そんな思考にとらわれ、どんどん悪い方に考えて塞ぎ込んでしまう。


 ある日、そんな私を心配したお父様とお母様が、こんなことを提案してきた。


「しばらくエミリアのところで、ゆっくり過ごしてきたらどうだい?」


 エミリアとは、隣国のガレオン王国の公爵家に嫁いだ、私のお姉様のことだ。

 酷い噂が広がるこの国からしばらく離れて、傷ついた心を癒してほしいのだと言われた。

 しかも、隣国は国全体で猫が愛されているから、私も居心地がいいだろうとのことだった。

 

 毎日、落ち込んで過ごしていた私は、少しでも私を知っている人がいない場所を求め、そしてお父様とお母様の悲しむ顔を見なくて済むように、しばらくガレオン王国で静養することを決めた。


 そして一週間後。


「お父様、お母様、行ってきます!」

「気をつけてね! エミリアによろしく!」


 私は屋敷を出発した。

 期待と不安を胸に抱き、馬車に揺られること三日。

 心地よい馬車の揺れでウトウトとしていた私は、御者の声で目を覚ました。


「マリアンナお嬢様、ガレオン王国の王都に到着しましたよ!」


 馬車の窓から外を覗いてみれば、そこはイルヌス王国とは違った趣きが感じられる、華やかな都だった。

 至る所に勇ましい猫の紋章が入った旗が飾られていて、猫好きの国という雰囲気がぷんぷんと漂っている。

 それに、大通りや脇道など、色んな場所で猫を見かける。人々も猫たちにおやつをあげたり、撫でてあげたり、モフモフを楽しんだりと、とても可愛がっている様子だ。

 そんな猫好きにはたまらない景色に、最近沈みっぱなしだった私の気持ちも浮上し始める。

 

 さらにしばらく馬車に揺られると、ついにエミリアお姉様の住む公爵邸に到着した。


「エミリアお姉様、しばらくの間お世話になります」


「マリアンナ、久しぶりに会えて嬉しいわ! 手紙で事情は聞いているわ。辛かったわね。ここでは、そんな噂をする人はいないから、ゆっくり過ごして頂戴ね」


 エミリアお姉様は、優しく声をかけてくれ、丁重にもてなしてくれた。

 私のために準備してくれたお部屋は、とても素敵な内装で、ベッドの上には可愛い猫のぬいぐるみも置いてくれていた。

 私はベッドに腰掛けて、ぬいぐるみを抱きしめ、ここでなら毎日笑って過ごせるかもしれないと、これからの生活が少しだけ楽しみになったのだった。

本日3話目の投稿です。

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