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2. 猫になったマリアンナ

 子猫に姿を変えられたままの私は、とりあえず裏庭で時間を潰すことにした。

 もしかしたら、そのうち魔法が切れて元に戻れるかもしれない。

 そろりそろりと手足を動かして歩いてみる。


「あら、四本足で歩くなんて初めてだけど、案外上手に歩けるじゃない」


 トコトコと屋敷の方へ歩いていって、窓ガラスに自分の姿を写してみた。


「……やっぱり、子猫になってるわね」


 窓ガラスには、思ったとおり小さな子猫の姿が写っていた。鏡ではないのではっきりとは分からないが、フワフワとした柔らかそうな毛に、くりくりの丸い目、ピンク色の小さな鼻。


「やだ、私ったら、ものすごく可愛い……」


 自分のあまりにも愛らしい猫姿に、思わず見惚れてしまう。そのまま窓ガラスの前で色んなポージングを取っていると、ひらひらと蝶々が飛んできた。

 ……なんだか無性に追いかけたくなってくる。心まで猫っぽくなっているのかもしれない。


 蝶々を追いかけて、軽やかに庭を駆け回る。猫の体の使い方にも、少し慣れてきた。

 そんな風に猫らしく遊んでいるうちに、いつの間にか夕方になってしまった。

 さすがにそろそろ帰らないと騒ぎになってしまう。未だに元の姿には戻れていないけれど、これ以上隠れているのは難しそうだ。


 幸い、猫の姿でも人間の言葉を喋れているので、こうなったら両親に事情を話して、何とかしてもらうしかない。私は無力な子供。困ったら大人を頼るのが一番だ。

 私は少しだけ開いていた窓から屋敷に忍び込み、両親がいるだろう居間へと向かった。


 居間へ行くと、案の定、お父様とお母様が揃ってソファで寛いでいた。

 私は意を決して声をかける。


「お父様、お母様」


 私の声が聞こえ、両親がドアの方に顔を向けるが、当然その目線の高さに私はいない。


「あら、今マリアンナの声が聞こえたと思ったのだけれど」


 お母様が不思議そうに首を傾げる。どうやら猫姿の私に気がついていないようなので、ソファに飛び乗って、もう一度話しかけてみた。


「お父様、お母様、私がマリアンナです。魔法にかけられて、猫の姿になってしまったのです」


 人語を話す猫を目の当たりにして、お父様は怪訝そうに眉を寄せ、お母様は両目を見開き、口元に手を当てて固まった。


 しばらく沈黙が続いた後、お父様が口を開いた。


「……本当にこの猫がマリアンナなのか? どこかに隠れて私たちを揶揄(からか)っているんじゃーー」


「揶揄ってなんていません。この可愛らしい子猫がマリアンナなんです」


「確かに、綺麗なプラチナの毛に菫色の瞳で、マリアンナのような見た目だが……」


 それから、なかなか信じてもらえないのを、一生懸命説明して、ようやく私が本当に猫の姿になってしまったのだと分かってもらえた。


「大変なことになってしまったわね。どうしたらいいのかしら……」


「北の森の老賢者を訪ねてみよう。この手のことに詳しいはずだ」


 お父様が言うには、王都の外れにある北の森には、魔法や呪いに詳しいというおじいさんが住んでいるらしい。そのおじいさんに聞けば、元に戻る方法が分かるかもしれないということだった。


 とりあえず、もう遅い時間なので、おじいさんの家には明日の朝一で出かけることになり、今日は猫の姿のまま過ごすことにした。

 私が猫になってしまったことは、家族のほかは屋敷の上級使用人にのみ話して、他には悟られないようにする。秘密を知らされた者たちは、さすがルーシャス公爵家の上級使用人だけあって、ほとんど表情を崩さずに理解してくれた。……なんとなく、もっと驚いてほしかったような気はしたけれど。


 それから、私は猫の口でも食べやすいように細かく刻んでもらった料理とミルクをいただき、蒸しタオルで体の汚れを丁寧に拭き取ってもらった。今は、お父様やお母様にたっぷりと撫でてもらっている。

 猫の姿でも意外と快適だ。

 いつのまにか、お父様とお母様も「猫のマリアンナも可愛いわねぇ」「今度は私の膝の上においで」なんて言って、すっかり猫の魅力の虜になっている。

 そうやって、両親に代わるがわる撫でてもらっているうちに、私はすっかり熟睡してしまうのだった。

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