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12. 最後のレッスン

 ライモンドとのレッスンを続けて早くも一月(ひとつき)

 ライモンドは随分前に、高い木の枝からも飛び下りれるようになっており、最近はもっぱらレッスンと言うよりは、ただただ楽しく遊んで過ごす毎日だった。


 そして、そんな日々に、いつしか私の心は癒され、そろそろイルヌス王国に戻っても大丈夫なのではないかと感じるようになっていた。

 以前は、あの酷い噂話を耳にすることや、好奇の目に晒されることが怖くて逃げていた。

 でも、ガレオン王国にやって来て、ライモンドというかけがえのない友達に出会えた。


 いつも私を大切に扱ってくれ、空っぽになっていた私の自尊心を満たしてくれた。

 そして、彼に猫の先輩として色々教えることで、自分の能力に誇りを持てるようになった。


 きっと今なら、イルヌス王国に戻っても堂々としていられると信じられた。


 決意を固めた私は、高い木の枝に登って、ライモンドに声をかけた。


「ねえ、久しぶりにレッスンをしましょう! ここから飛んで、一回転を決めて着地できるかしら?」


 そしてそのまま手本を見せる。軽やかに飛び出した私は、綺麗に体を丸めて一回転し、しなやかに着地すると、人間の姿に戻って優雅にお辞儀した。

 それを見て闘争心に火がついたのか、ライモンドも駆け出してさらに高い木の枝に登った。


「僕だって負けないよ。見てて、マリアンナ!」


 ライモンドも高く跳躍し、くるくると二回も回転すると美しい姿勢で着地し、私を真似して人間の姿でお辞儀をした。


「ライモンドったら、もう私よりすごいじゃない!」


「君が帰った後も、たくさん練習したからね」


 得意げなライモンドに、私は笑って言葉を返す。


「……もう、私が教えなくても大丈夫ね」


 いけない、なんだか涙が出てきそうになる。


「……どういうこと? もう会えないの?」


 ライモンドが険しい表情で聞き返す。


「私、旅行でこの国に来たって言ったでしょう? あなたも色々できるようになったし、そろそろ自分の国に帰る時が来たのよ」


「もっとここにいればいいよ。君を連れて行きたい場所が、たくさんあるのに……」


 私だって、ライモンドと会えなくなるのは、とても寂しい。こんなに気の合う人は初めてだったから。


「この国が大好きになったから、また時々来るわ」


「だめだよ。君がいないと、また困ったことが起きてしまうかもしれない」


 猫仲間がいなくなるのが不安なのか、珍しく駄々っ子のような物言いだ。


「そんな顔しないの。困ったことがあったら、私を頼りなさい。助けてあげるから」


 私は幼子を安心させるように、ちょっとお姉さんぽい口調で言ってみる。


「……本当? 絶対助けてね。約束だよ」


「絶対守るわ。私たち、お友達でしょう?」


「……友達じゃ足りないんだけどな」


「え?」


「ううん、僕も君のこと、大好きだよ」


 ライモンドはそう言って綺麗な顔でにっこりと笑うと、また猫に変身して私に飛びついてきた。


「ねえ、最後のご褒美にまた撫でてよ」


「もう、仕方ないわね。ここに座って」


 私は寂しさを誤魔化すかのように甘えるライモンドの背中を、何度も何度もゆっくりと、心を込めて撫でてあげた。

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