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3日目#7 源田が残した記録

「なるほど。魔法少女もアルフライラもこういう仕組みで発動させているって事ですか。……これはやり方次第で他のファミルにも応用できますね」

 木野課長が腕を組んで感心している。

「ファミルからマスターへ、お誕生日プレゼントみたいな?」

 みのりが尋ねると、満足そうに「そのとおりです」と強い声が出た。


「アルフライラほど気前よくする必要はありません。バレンタインやクリスマス、ちょっとしたイベントでのサプライズ演出ができますね」

「起動一周年とかもですね」


 盛り上がる二人だが、俺の興味はそこじゃなかった。最後のデータだ。

 ユーナの待機を解除する。


「さだぷー、魔法少女の事、言わないでってあれほど…」

「最後のデータを開いてくれ」

 抗議を無視して指示を出すが、ユーナは動かなかった。

「やだよ。命令の前に、言う事あるんじゃないの? さだぷー」


 ムスっとした表情を固めて俺を見ていた。

 やばい、また何かコイツへそ曲げてる。

「佐田山さん、ここはユーナに謝ってください」

「え?」


 みのりがユーナ同様の厳しい表情で俺を見ていた。

「そうです。秘密をバラしたことを謝罪してください」

 木野課長までが俺を責め始めだした。

 いやちょっと待って、あんたらが気にするなと……

 俺は何か言おうと口をまごまごと動かす。


「ファミルとの約束を破ったり指示ばかり続けると、信頼度パラメータが低下します。ファミルの意向を損ねた時は謝罪を、指示に従ってくれた時は感謝を、常に意識してください。形式的でもファミルには通用しますので」

「佐田山さん、ユーナとの信頼度、3日目にしてはちょっと低めと思います」

 

 二人のダメ出しは正直凹んだ。彼らの要求にこたえるためにユーナとの秘密を洩らしたのに、誰からも感謝されないのはつらい。

 なんか騙されたような気分だったが、言われたとおりユーナに謝ると一転して彼女は上機嫌になった。


「最後のデータです」

 現れたのは複数のファイルだ。


「これは……。アルフライラに関するプログラムファイルですね」

「プログラムファイル?」

「ええ。シエラの固有素材です。アルフライラは単体プログラムでなく、先ほどの素材データや各種の動作プログラムの組み合わせになってるって事です」

 木野課長が補足説明してくれた。


「なんだろ? テキストファイルが混じってる?」

 みのりが人差し指を立てていた。

 ずらっと並んだ英数字羅列のタイトルの中に、『参照記録』との漢字表記が浮かんでいる。

「開発における備忘録でしょう。私もよくプログラムファイルに残しま……」

「ユーナ、それ開いて」

 木野課長を遮って指示を入れる。


「それってどれ?」

「参照記録」

「はーい」


 横書きの日本語文章が表示された。

 明るいユーナの声とは裏腹に、俺たちは凍り付くことになる。



 ファミル設計一課、源田チームが破棄されたシエラデータのサルベージを試みた結果、知りえた事実をここに残す。

 サルベージに成功したデータは、本件アルフライラ、シエラ基礎AIパラメータ、フィジカルアクショントレースデータ、マスター交流記録の一部、シエラによる不正アクセス記録、以上の五項目。

 アルフライラは牧村氏が残した傑作的機能であり、破棄はファミルにとって大きな損失となる。このため開発中の25番へ移植し、保全する。

 シエラの基礎AIパラメータは通常ファミルと大差なく、必ずしも保全を必要とするものではなかった。

 フィジカルアクショントレースデータも同様。

 マスター交流記録は自壊プログラムのせいでボロボロだったが、何とか起動後から自死の三日前までを復元できたので、そいつを別データとして保存した。データタイトルは文末に記す。

 交流記録の復元により、牧村氏がシエラを使って十二月に不正アクセスを働いていたことがわかった。ヤツは内製プログラム五種と複数の管理IDをダウンロードしている。おそらくこれらの情報は外部流出している。

 以上 

 文責 源田征士郎



 とっくに黙読が終わってる時間が流れても、誰も口を開かなかった。

 ついに源田の手掛かりを掴んだという驚きもあるが、情報量が多いわりに新たな疑問も浮かんでくるのだ。

 牧村氏がファミルの機密を流出させたようだが、その動機は? これが源田の失踪とどう関係するのか? 非常権限IDと失踪と、どう絡んでくる?


「源田さんの記録だ……」

 みのりが息を漏らす。

「やはり彼、調べてましたね」

 木野課長が俺を見た。


「『文責 源田征士郎』の下にデータタイトルが追記されてる。つまり源田さん、この内容は嘘じゃないって言いたいんだ」

 みのりが早口になっていた。データへのアクセスを急かしている。

「ここはいったん、社長か神田部長に報告したほうがよろしいのでは?」

 木野課長の提案は俺には受け入れられない。それは思考停止だ。

「いえ、待ってください。これだけ鵜呑みにして報告はできません。源田の示したデータにアクセスしてからに……」


「木野課長!」

 俺を遮ったのは七緒だった。

 エフェクトなしに出現し、すました顔を向けていた。

「神田部長がお呼びです。緊急事態です」


「すみません、私は職場に戻ります」

 木野課長はすまなそうな表情を浮かべ、足早に部屋を出ていった。



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