3日目#5 みのり激怒する
「笹尾さんの言う通り、アルフライラは魅力的な能力です。明日へつなげる希望とも言えるでしょう。それにシエラの処分について改めて考えてみれば、データをバラバラにするのは変です」
「変?」
みのりが首を傾げた。
「プライバシーの観点から交流データだけ抹消し、シエラは形を保ったまま非商品化モデルとして残しておく。……開発者目線ならそうします」
「今、見ているのはただの映像ですもんね……。カタログみたいな……」
みのりがシエラを指さした。
「そう。モデルとして残されていれば、IDさえ再設定できれば動かすことができた。そこからモデルチェンジして新規ファミルの開発ナンバー付与もできた」
シエラを見つめて木野課長がつぶやく。
そしてゆっくりと俺に目を向け、尋ねた。
「なぜ抹消されたと思いますか?」
「それは……、都合のいい人がいたんでしょう。牧村さんの自殺に、後ろめたさのある人とか、あるいは牧村さんに弱みを握られていた人。シエラの抹消によって、枕を高くして眠れる人がいた」
ここまで来たら、余計な忖度は不要だろう。
俺はストレートに告げた。
「であれば、源田がシエラに興味を持った可能性はあります」
木野課長が軽く頷いた。
おお!
心の中でガッツポーズを取る。
これでシエラのデータを確認できれば、手掛かりが出てくるはずだ。
しかし木野課長はゆっくり首を振った。
「でも佐田山さん。……残念ですが、私が協力できるのはここまでが限度です。抹消と決まったファミルのデータを、勝手に掘り起こすのは不正アクセスとなりますので……」
何だって?
話が終わろうとしていた。
「佐田山さん、この先は調査の一環として、正式にアクセス許可の申請をされてはいかがですか?」
みのりが申し訳程度に付け足す。
親切かもしれないが、その提案は木野課長を外す流れになってしまう。できれば彼の助けがほしいところだ。
「笹尾さん、シエラの件って、そんな単純でもないんですよ」
木野課長がみのりに告げる。
「アクセス許可申請って具体的なデータタイトルを添えないとダメなんです。シエラのデータはファミル素材を示す英数字羅列になってるから、その特定をしないことには申請しようがないんだけど、まあ、特定できませんね……」
残念そうに、また首を振る。
「では、ファミル素材で『アクセス不可』を条件にピックアップすれば、絞り込みできますか?」
みのりが食い下がる。彼女もシエラが気になるらしい。
「佐田山さんは部外者だから、ファミル素材は基本的に全件、アクセス不可です」
「え~?」
「……シエラの件、何とかなりませんか?」
木野課長に懇願する。
自分でも情けないが、年貢を納められない農民のような苦しい言葉しか出ない。
「私では何とも……」
彼はグラスを外して首を振った。七緒がスッと消える。
ガタン!
みのりが立ち上がっていた。椅子が後ろへ倒れている。
「カオリ! 第六会議室へ来て! 出現は定位置デルタ! オールクリア!」
甲高い声が空気を切り裂く。
同時にグラスの中で白い光がはじけるが、視界内に光の柱は現れない。
みのりは会議室の隅、七緒がいた位置とは対角線になる一方を見ている。
「お待たっせ~!」
みのりの視線の先に、カオリが立っていた。
黒ずくめ、ゴスロリ風のアイドルワンピース。左手を腰に当て、パーに開いた右手を顔の高さに掲げている。
この局面では異物感満載だが、そんな事、言ってられない。
「ねえカオリ、ファミル素材のデータタイトルが分からないけど調べたいの。どうすればいい?」
唐突すぎる質問だ。話に加わっていないファミルに理解できるのか?
「ファミル素材のデータタイトルを確定させてから、調べてはどうかな?」
案の定、カオリは戸惑いの表情を見せる。
「そういう事を聞いてるんじゃないよ、もう!」
みのりが地団駄を踏むように、片足でダンと床を叩いた。
「ごめんごめん、みのりちゃん。カオリに分かるように、優しく言って?」
首を傾けるわざとらしい仕草で、人差し指が口元に添えられた。
「もう一回言うよ? ファミル素材のデータタイトルが分からない。確定する事もできない。でも私はアクセスしたい。どうすればいい?」
怒りのオーラを帯びて、質問が繰り返された。
カオリはまったく動じる気配なく、平然と答えを返す。
「んー、逆引きはどうかな? 例えばカオリの魅惑的な唇、とか、既存ファミルの部位や特徴を具体的に指定してくれれば、素材のデータタイトルをお知らせできるけど……」
「それだっ!」
みのりが振り向いて木野課長を見る。
「既存ファミルという条件がダメです。シエラは抹消されてますから」
木野課長が首を振る。
いい加減、首の揺れを止めたい気分になってきた。
「佐田山さんも、ユーナ起こして何か聞いてください! さっきから見てるばっかり、ホント何もしないで!」
え?
みのりが凄い剣幕で俺を睨んでいた。
俺に飛び火?
「みのりちゃん、そげん言い方はないっちゃよ? 女の子やけん、優しーいほうが好かれ……」
「カオリは待機っ!」
ゴーゴンよろしくカオリを凍り付かせて、吊り上がった目が俺に向けられる。
「本気でシエラを調べる気、あるんですか?」
そう問い詰められると立つ瀬がないが、何でもかんでもファミルに尋ねて正解が出るとは限らない。ある程度の絞り込みが先だと思うんだが……。
だが、みのりは真剣になってくれてる。それは無碍にはできない。
ここは一言謝罪し、ユーナを起こした。
「さだぷー、何か用事?」
「抹消されたファミルが素材となっている。これのデータタイトルが分からない。データタイトルを知る方法を教えてほしい」
少し間を置いて、ユーナが答えた。
「既存ファミルに使われているなら、逆引きが可能だよ。どのファミルに使われてるか、分かる?」
くそ、カオリと同じ答えか。
「ほしいデータは抹消されたファミルの一部なんだ。既存ファミルじゃなければ、完全に不可能か?」
「うーん。……既存ファミルの似た要素で逆引きすれば、どうかな? それだと、ダメなの?」
「あてずっぽ過ぎるよ、ユーナ。似た要素なんて、探せばいくらでもあるし……。確実性がなさすぎる……」
みのりがため息まじりにつぶやいた。
だが俺には引っ掛かるモノがあった。
アルフライラだ。
もしユーナの『魔法少女』と同一なら、アルフライラ設定データがヒットするんじゃないだろうか?
あてずっぽでも、確率は高めだ。
「じゃあ、ユーナ。……開発ナンバー25番の特殊能力、『魔法少女』のファミル素材と似通ったデータタイトルを教えてほしい」
「25番ってユーナですよ? 何言ってるんですか、佐田山さん!」
みのりが抗議にも似た声を発した。
「魔法少女……?」
その一方で、木野課長がくぐもった声でつぶやく。




