3日目#3 FAMiR”カオリ”開発秘話
「佐田山さん、ども、木野です」
ファミル設計二課の木野課長は、ひょろっと痩せた体格で、顔つきは細長く白ナスを彷彿とさせた。
年齢は俺より年上な印象で、40歳プラマイ1歳ってとこだろう。
グラスに鎖をつけてネックレスのように胸に吊るしているのだが、老眼鏡を思わせてイマイチ垢抜けてない。
木野課長は笹尾みのりが引き合わせてくれた。
いや、キーとなったのはカオリと言っても過言ではない。
「はいはーい、(中略)……歌が大好きカオリです」
そんな口上で始まるカオリに、「ファミル設計二課の木野課長に会いたい」と、単刀直入に頼んでみたのだ(もちろん用件だけで即切り)。
しばらく置いて、みのりから折り返しの電話が掛かってきた。
「木野課長にどんなご用件ですか?」
「カオリの開発に絡んで源田さんとコラボしてたんで、当時の状況について話をしたいんです……」
「へぇ……。源田さん、カオリの開発してたんだ。……知らなかった。あ、木野課長はお連れします」
二つ返事で引き受けてくれたのはよかったが、みのり自身、カオリ絡みに興味を持ってしまったらしい。
木野課長を連れてきたはいいが、自分も同席すると言い出した。
「社長秘書なんだから、笹尾さんは職場に戻ったら?」
俺より先に、木野課長が忠告した。
「大丈夫です。社長からは、佐田山さんの仕事を見守るようにも言われてます」
みのりは強情な子供のように、首をぶるぶる振った。
ここは折れるしかないだろう。
追い出して非協力的になられても困る。
俺と木野課長は机に並ぶ椅子に掛けた。
みのりは別室から椅子を持ち出してくると、木野課長の斜め後ろに腰を下ろした。
ユーナは俺の背後でスリープ状態だ。
机に対して半身で構え、木野課長に向かい合う。
まずは会話が自然になるよう、カオリの話からだ。
「カオリの開発で源田さんと連携されていたそうですが、どんな作業分担だったんですか?」
「リリース版に向けた最終調整です。源田チームが性格面での調整、私のチームは表情と性格との適合性を調整しました」
取り立てて緊張する様子もなく、落ち着いた声が返された。
しかし当たり障りが無さすぎる。
具体的な仕事の様子がまるで分からない。
「最終調整とは、ファミルの性格が、その表情や動きに反映されるように連携する、って意味ですか?」
かなり適当に質問してしまったが、木野課長は丁寧だった。
「そうですね。……ファミルは内面的な性格要素を外観上の表情や動作要素に重ね合わせて作られてます。最終調整は、各要素が破綻なく結びついているかを確認する工程です」
「……それは例えば、明るく積極的な性格のファミルは、表情や動作も、その性格に合わせてオーバーアクション気味に調整する、という事ですか?」
今度はもう少し考えて質問してみた。どうやらそれで正解だったらしい。
木野課長は「ええ」と答えてくれた。
「カオリの場合は少し複雑な事情がありました。彼女は言語的に特殊なファミルで、基礎言語が博多弁なんです。ところが方言と標準語とで、それぞれを話す時の性格特徴が一致しない問題が生じました。翻訳機構の問題なんですが、源田はこれを逆手にとって、カオリのキャラを完全な二重人格構造にしたのです」
「ONとOFFの差が激しいんです、カオリって」
みのりが付け足した。
「そうなんです。標準語の時は仕事モード、方言の時は遊びモード、と分割される性格設定にしました。おかげで私のチームは、それに応じた表情や動作設定をしなければならなかったんです。つまり、一体のファミルに二体分の仕事する羽目になったんです」
「でも、結果的には良かったんじゃないかな? カオリって、ビジネスファミルの先行予約で一番人気ですからね。2位の七緒にも大差だったんですよ」
あっけらかんとした声を肩で受け、木野課長は苦笑気味に顔を緩めた。
少し寂し気な笑顔だ。カオリの最終調整では相当苦労したのだろう。
「源田さんは、二重人格にして手間かけさせてゴメン、みたいな事を設計二課に言ってましたか?」
「いえ、言いませんよ。優れたファミルを世に出すことが目的ですからね。手間がかかるからと文句を言ったり謝ったりなんてのは、源田に限らず誰もしません」
木野課長は緩んだ顔でそう言ったが、目が笑ってないのが気になった。
顧客が喜ぶモノを作るのが最優先で、会社の仲間の手間なんか、いちいち気にしない。まあ、それが正論なんだけど、心情的に割り切れないものもある。それは俺も分かる気がした。
カオリの話がいい具合に煮詰まり気味になったので、話題を本命へ移す。
「他に、シエラ、というファミルでも開発連携されてますが、これも同様に性格と表情の分担ですか?」
「シエラに関しては、私は源田と直接的な協業はしてません。彼が携わったなら、長野にいる頃にプロトタイプ原案を設計一課に出したのだと思いますが……」
「設計一課……、自殺された牧村課長に、ですか?」
木野課長がびくっと肩を揺らした。みのりが心配そうに、その肩をうかがう。
「そうです」
短い答えだ。
余計な事は一切言いたくない、という意志が込められている気がした。
こんな場合、あまり回りくどい事を言うと、反感を買う恐れがある。
ここからは手短に行こう。
「牧村課長は昨年暮れに亡くなり、源田はこの春に失踪。源田の同僚2名も死亡。この四人全員が、ファミル設計一課にいた時、事件事故に遭遇してます」
俺の発言に、二人とも反論しない。だまって次を待っている。
「とは言え、牧村課長の自殺と源田の件は無関係かもしれません。それを確認するなら、シエラのマスター交流データを解析すべきです。でもシエラは破棄され、ユーナではそのデータを追う事ができませんでした」
「正しくは破棄ではなく抹消です。牧村の件があったため、抹消されました」
木野課長が早口で訂正する。
「抹消されたシエラを復元する事は……」
「復元は無理です」
首が振られた。




